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大切な仏像を盗難被害から守るための5つの対策

少し前ですが、和歌山県の県立博物館で行われた『和歌山の文化財を守る』展を見てきました。そして書いたのが、以下の記事です。

仏像を信仰の対象として拝むことは尊いことですが、それが万人に共有されると考えることは危険です。上記の記事でも詳しく書いていますが、仏像を盗む人には罰が当たると考えることは、以下の3点の理由で盗難防止の妨げになる考えています。

○防犯対策が仏像のご利益まかせになる
○盗まれた後の検証が鈍くなる
○泥棒の正体を見誤る

まずは人間ができる対策をしっかりと取ることが必要で、今回はそうした仏像盗難防止策についてまとめてみます。

大切な仏像を盗難被害から守るための5つの対策

仏像を盗難から守るために

仏像の写真を撮影する

まずは何よりも仏像の写真を撮ることです。これはお寺によって、あるいは尊像によって抵抗を示される方もいるかもしれません。

特に秘仏は簡単に厨子を開けることができない、非常に特別な存在です。ですが盗まれてからでは遅く、30年後のご開帳の時にでもというような、悠長なことは言ってられません。

盗まれた後にその仏像が戻るかどうか。それは写真のあるなしが大きく影響します。和歌山県立博物館・主査学芸員の大河内智之さんは、ある日何気なく見ていたオークションサイトで盗難被害に遭った仏像が出展されているのを発見されました。

しかしこちらは事前に撮影した写真があったからこそ、迅速な照合が行えて警察も動き、所有者のもとに返還された幸運な事例です。

『和歌山の文化財を守る』展では、窃盗犯がが逮捕されて無事に取り戻されたものの、持ち主が不明のままで元の場所に返せない仏像も多数展示されていました。中には自分のもとにあった仏像だと、所有者自身が判断つかない事例もあるかもしれません。

盗難被害から戻ったけど、持ち主が分からなくて返せない仏像一覧

写真がない場合、たとえ仏像を警察が押収したとしても、すぐに返還することが難しくなります。仏像の内部や背面に刻まれた銘文、お寺に残った他の仏像、台座、光背との組み合わせなど、丁寧に調査しないといけないこともあるでしょう。しかし写真があれば、盗まれたときの迅速な調査や犯人が捕まった後の手続きにも、大切な資料になります。

仏像を撮影することについて、大河内さんに文化財の専門家としてどのように考えているかをお聞きしたところ、「万が一の時のために記録として残すことは重要で、仏像を守るための行動は信仰から見ても必要なことでは」というご意見でした。

そして付け加えれば、写真撮影と共に寸法の記録もしておくと、より具体的な情報になります。立像は頭の先から足元まで、坐像は頭からお尻までの高さを測ります。台座や光背も含めた大きさも測ればなお良しです。銘文があれば、そちらも記録しておくと良いでしょう。

窃盗犯が嫌がる工夫をする

盗難に遭いやすいお堂には特徴があります。まずは何よりも無住であること。そして車でそばまで入れることや身を隠せる場所があることは、窃盗犯には都合の良い環境です。そこでこうした死角をいかに減らせるかは、盗難防止策としても重要です。

普段から下草を刈ったり、ゴミを片づけたりなどきれいにしておくことも、防犯には有効です。明らかに人の手が入っていることが一目瞭然になりますし、それは後ろめたい心を持つ人が近づくのを防ぎます。夜間に人を感知して光るセンサーライトを設置したり、お堂に侵入すると音が鳴る警報機の設置も良いでしょう。

他にも窃盗犯の心理では、作業に時間がかかることをとても嫌がります。これは一般住宅の空き巣被害に関する話ですが、侵入に5分以上かかるとあきらめる人が多いことは、防犯の専門家からも指摘されています。

このため入り口の施錠を一つだけではなく、2つ、3つと付けておくことは、犯罪を事前にためらわせる上でも有効です。

管理を委託する

無人のお堂で誰も管理できない。このようなときは無理せず、博物館などに委託することも一つの方法です。

ただし現在、多くの博物館で収蔵庫のスペースが切迫している問題があります。

日本博物館協会が公表している『日本の博物館総合調査報告書』によると、収蔵庫が「ほぼ、満杯」「入りきらない資料がある」と回答された博物館は、合わせて46.5%に上りました。また7割から9割程度が埋まっている博物館も合わせると65.4%になります。

新たな収蔵庫の新増設も簡単ではなく、この博物館の収蔵スペース問題も年々悪化が心配されています。

そこで私が提案していることは、宿坊との組み合わせです。国宝や重要文化財などは難しいかもしれませんが、地域の宝を一つのお寺でまとめて管理し、宿坊のアピールポイントにしていくことは、文化財の保護と活用を両立させる方法として一考の余地があります。

もちろん仏像はもともとあった場所にあることに意味があります。しかし雨漏りのする堂内で放置されたり、人目のない場所で盗まれていく状況下では、客仏として他のお寺に移されることも各地で行われてきました。

そこに宿坊を組み合わせ、観光資源として活用して得た収益で管理・修復も担っていくことは、それほど突拍子のない話でもないでしょう。

3Dプリンターによるお身代わり制作

3Dプリンターで作られた仏像

先に述べた「管理の委託」にも通じる話ですが、和歌山県立博物館の企画展では、3Dプリンターによる仏像のお身代わりを作るプロジェクトが紹介されていました。

3Dプリンターとは、デジタルデータをもとに立体造形物を作る装置です。通常のプリンターがインクを用いて平面上(2次元)に文字や画像を印刷する一方、3D(3次元)は樹脂を使って自動で立体物を作ります。

そしてこのお身代わり制作は、3Dスキャナーで仏像を様々な角度から計測し、出来上がったデータからプリンターで出力します。

この制作にあたっては、和歌山県立和歌山工業高等学校産業デザイン科の生徒と、和歌山大学教育学部美術家教育専攻の学生の協力が得られていました。

平安・鎌倉時代に作られたような貴重な文化財であり、これまで自分たちが手を合わせてきた仏さまのレプリカを制作する。しかも完成したら本物は博物館に移され、もともとあったお堂にはレプリカが安置されます。このことについて仏像を守る意義は理解できても、心境的に複雑にならない方はいないでしょう。

そこで大河内さんは、制作に携わった生徒や学生が奉納の場にしっかりと足を運び、地元の方と交流を持つ大切さを強調されていました。

文化財を守るだけであれば、仏像を博物館に移すだけで済みます。しかし残されたレプリカを「お身代わり」として信仰の対象として頂くためには、作った人間の想いや努力を伝えることが鍵を握ります。

3Dスキャナーや3Dプリンターで制作すると言っても、ボタン一つで全てが自動で作られるわけではありません。さらに言えば着色は美術を学ぶ学生による手作業です。

学校で学んだ技術を活かし、一体一体丁寧に作らなければ、本物に変わる「仏像」にはなりません。そして完成してお寺やお堂に奉納される時、その過程が生徒たちから語られるからこそ、「本物と同じように大切な仏さま」だと思って頂けるわけです。

技術発展に目を向ける

3Dプリンターによるお身代わりは素晴らしい取り組みですが、これを量産することは現時点では難しい話です。

和歌山県のプロジェクトでは授業の一環として(人件費はかけずに)行われていますし、仏像の大きさにもよりますが材料となる樹脂の価格だけでも一体につき10~20万円はかかります。

こうしたコストは文化庁の補助金で賄われている側面もあり、盗難被害の抑止力とは成りえても、和歌山県で年間に172体以上も仏像が盗まれたような多発する事件を防ぐ上では限定的です。

そこで現時点ですぐには活用できないものの、今後の技術革新次第では有効なアプローチと成り得る技術も述べておきます。

まず一つ目はAIの進歩です。盗まれた仏像写真を事前に登録しておけば、オークションサイトに出品されたときに自動で検出される仕組みが、いずれ開発されると予想されます。

これは仏像だけに特化した話ではありません。不正な出品への対処は社会的に求められていきますし、画像認識技術は日進月歩で進化しています。

もしかしたらオークションに限らずとも迷子になった犬や猫まで、すぐに検知できる日が来るのではと私は予想しています。

続いて、監視カメラです。現在の防犯対策では最も語られることが多い技術ですが、まだまだ高価なことがネックです。

しかしこちらもAIなどとの組み合わせで、指名手配犯の顔を認識して特定人物が近づいた時のみアラートを上げる技術や、人間の行動心理学などを用いて不審な動きのみに反応する仕組みも研究されています。

これらの技術が汎用化していけば、やがては使い終わったスマホにアプリをダウンロードしてお堂の片隅に設置するだけで、防犯対策として機能する時代も来るでしょう。

そしてGPSトラッカーも期待の持てる分野です。現在は3cmほどの大きさで、5000~1万円程度で販売されています。

財布や鍵の紛失、高級自転車が盗まれたときの検知用などが主な用途ですが、これがさらに小型化、高性能化して仏像の底部などに張り付けられれば、驚異的な事前抑止と事後追跡が可能になります。

ということで、、、

仏像が盗まれたお寺の方やお堂を守られている方は、「まさか、うちの仏様が」と唖然とされることが多いです。

もちろん、事件や事故はいつ起きるか分からず、そして起きてから後悔しがちなものではあります。しかし仏像に関して言えば、常に狙われているという意識はもはや必須です。

以下の記事で、仏像が他の美術品などより盗まれやすい現状をデータで紹介させて頂きました。

これ以上仏像を盗まれないために、日本が今できること

簡単にまとめると

○仏像は他の美術品より圧倒的に狙われやすい
○お寺は住宅の10倍以上も狙われやすい
○その結果、仏像はたくさん盗まれている

と、いうものです。

なので写真撮影から今後の技術動向へのアンテナ張りなど、仏罰任せにせずに人間ができることを地道に行っていくことが、これから仏様を守っていく上では欠かせないでしょう。

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