成長戦略を手放した向源は、これからどこに向かうのか?
今年も寺社フェス・向源に行ってきました。一番最初の年を除き、2年目から6年連続参加。というわけで向源ヒストリーを追いかけ続けた私ですが、今年は一番評価の難しい年になりました。
まずは向源の整理から。去年(2016年)のプレス発表会では以下のロードマップが提示されています。
そして向源のサイトを見ると、2016年のレポートでは以下のように書かれています。
2016の向源は、寺社に加え、街でも開催する寺社フェスという冒険をしました。2016年の向源は、僧侶、神職をはじめ、文化人、職人、アーティスト達が集い、100コマ以上の体験型ワークショップや公演などを実施し、15000名以上の来場者を迎えることができました。
とりあえず2016年の時点までは、このロードマップが達成されたわけです。なお、2020年の動員600万人はさすがに飛躍しすぎのため、その後60万人に書き替えられたと記憶しています。
2017年の向源は、一気にスケールを縮小した
一方で今年(2017年)の向源は2日間開催。初日は中目黒にある正覚寺。2日目は京浜四大本山と呼ばれる増上寺(浄土宗)、池上本門寺(日蓮宗)、川崎大師(真言宗)、総持寺(曹洞宗)です。
4つの宗派本山での同時開催。今年もステップアップしてきたなと思いきや、中身を見るとかなり様子が異なります。
今回、私の目算では初日は来場者600人、二日目は200人くらいでした。誤差を入れて最大限に見積もっても、合わせて1000人が限度ではないでしょうか。人数の上では2016年の1/15に激減です。
また全体のワークショップ数は全部で32コマ。これも去年と比べて大きく数&種類を減らしました。
中目黒の正覚寺さん。素晴らしいお寺ではあるのですが、2014~2015年のメイン会場となった増上寺と比べると、こじんまりとしています(いや、徳川将軍家菩提寺と比べるのが無茶なだけで、正覚寺さんは都心部でもむちゃくちゃ大きなお寺ですが)。
そして2日目の四大本山。私は増上寺の様子を取材してきましたが、通り過ぎただけでは向源やっていることに気がつかないレベルです。基本的にこの日はどのお寺も修行体験&お寺ガイドのワークショップのみなので、他の3本山も似た感じだと思います。
向源のビジョンは事実上撤回された?
そんなわけで「フェス」としていろんなワークショップが集まり、向源らしさが出ていたのは初日のみ。その中で去年までともう一つ変わったこととして、今年はチケット購入者のみしか入場できなかったという点があります。
当日、会場まで足を運んで門前払いに会う人が出ないかと、私も注意報をブログに書きましたが。
参考:2017年の向源は、事前にチケット買わないと入れないので注意
これは大きな方向転換です。有料制限が先にあって規模縮小したのか、それとも規模縮小のために有料制限したのかは分かりませんが、この変更によってこれまで描いていたビジョンは白紙になったと言ってよいでしょう。
向源の向源らしさは「オリンピックの年に東京のあちこちで一ヶ月間ぶっ続けで開き、外国から来た人に日本を知ってほしい」という友光雅臣代表の熱い言葉がありました。私は事実上、今年でこれが撤回されたと見ています。
だってね~。チケット購入者のみしか入れないなら、オリンピックを見に来た海外の方がふらっと立ち寄ることが不可能になりますし。ついでに言えばこれまであった英語でのワークショップ体験も、今年はなくなりました。
向源はこれから何を目指すのか
向源については、もう二つ大きな動きがあります。それは青江覚峰副代表の引退と、秋の京都開催です。
向源がここまで大きくなった原動力の一つに、2014年から青江覚峰さんが副代表に就任したことが挙げられます。青江さんは料理僧として目隠しをした中で食事を頂くイベント『暗闇御飯』の主催や数々の料理レシピ本制作、『サチのお寺ごはん』という漫画監修などを務めた人気僧侶です。
アイディア、行動力、人脈などずば抜けた方で、向源にも様々な飛躍の機会を作られていました。が、今年の向源終了後(というか、初日が終わった時)に、facebookで副代表引退宣言を出されました。
また新たな企画があるようなコメントもされているので、ご本人の中では向源は一区切りということでしょうが、上に書いたような方向性の変化も引き金の一つかもしれません。
そして秋の京都開催。こちらはまだ場所だけ決まって(2017年10月予定、京都大原-勝林院・実光院・宝泉院)内容はこれからと伺いましたが、東京を離れるという点も今後の展開に向けては象徴的です。
そんなわけで最後にほーりーの大予想。向源はこれから一体、どこに向かうのか。考えられる選択肢は3つあります。
このまま収縮
これが一番ありえそうですね。いや、今年の規模で(か、もう少し大きくしながら)来年、再来年とは続けられるでしようが、お寺イベントがあちこちで増えている現状、成長戦略を手放した向源が独自性をどこに持っていけるのかは難しい舵取りです。
「寺社フェス」という境地を開拓したという意味で向源の功績は称えられるべきですが、トップランナーとしての役割は終わるのかもしれません。
イベント仏教の先鋭化
「イベント仏教」なんて言うと口の悪いお坊さんが、最近のちゃらちゃらしたお寺イベントを批判する時によく使う言葉ですが。ここではポジティブな意味で使っています。
というよりも現在、イベントは頑張って開いたけどお寺に何も残らずに疲弊感だけ漂う事例が多発しています。去年の向源なんて大赤字でしたし。
参考:向源200万円目標未達の大ピンチ。借りたホールが攻めすぎた!
今回の有料制限も、ここに端を発していたのかもしれません。で、あればお寺が疲弊しない、収益的にも布教的にも潤うイベント仏教を開発してほしい!
寺社コンのようにね。
向源を一つのパッケージにしていろんな場所で行えるようになれば、秋の京都開催はひとつの試金石として意味が増していきます。
脱初心者層へのアプローチ
2年くらい前に私が予言したとおり、今年になってお坊さんバブルが弾けました。
ぶっちゃけ寺の終了を見ても「お茶の間に仏教を」という薄く広くのアプローチは一通り循環したと取るべきで、ここからは興味を持った人へのステップアップ仏教が求められます。
そう考えた時、お金を払ってでも参加したいという方のみを対象にしたイベントは、新たなイノベーションにつながります。
現在の向源は数千円レベルだけですが、その他に数万円レベルまで引き上げたものも開発し、階段状の仏教入り口を作ることができれば、向源はまた現在のお寺社会で独自のポジションに立つことができるでしょう。
まあ、これは私が顧問を務めている3社(宿坊、樹木葬、企業向けお坊さん講師)ですでに先行していることでもありますが、向源がこのフィールドに立つなら私は手を組む余地が増えるかなと勝手に期待もしています。
ということで、、、
こんな記事を書くと、向源ふざけんな。これまで大口叩いて、結局は尻すぼみかよみたいな声も聞こえそうです。
が、私はそうした声をあげる人こそ、全力でぶん殴りたいという立場です。
いや、お寺に関わるものとして暴力は良くないな。お布施を開けて中身を数えているところを、檀家さんに見つかれと念じるくらいにしておこう。
確かに友光代表のビジョンに共鳴して毎年足を運んでいた私としても、今年は戸惑いまくっています。
が、いいんですよ。それで。前人未踏を歩く人間は、道に迷っているのがデフォルトです。前言撤回や方針変更、論理的矛盾を犯さない人は信頼に値しないというのが私の持論です。
そして今年の向源は、これまで作ってきたものが破綻した、失敗した年と総括するのもまだ早いと思っています。私は上に挙げた2通りの方向性でまだまだトップランナーとして進む道があると考えていますし、向源側にも別のビジョンがきっとあるでしょう。
それに掲げたゴールにたどり着かなかったとしても、それを揶揄するような人たちは常にスタートポジションから歩こうともしない人たちですので、気にする必要はナッシング。
今年の向源のテーマは「かわりたい」です。向源もきっとこれからまた、変わっていくと思います。
ラストの声明公演の後、友光さんは最後に「去年までは終わった後に、声明についての感想を挨拶であれこれ語っていました。が、今年はそれをやめにします。なぜなら私が語ると、皆さんが声明から受け取ったものが上書きされてしまうからです」と、おっしゃっていました。
去年の日本橋(街の中)からお寺開催に戻ったことで、精神性は深まったというのが私の印象です(2~3年前に戻っただけかもしれませんが)。
向源が新たな道を切り開こうと、ここをひとつの区切りにしようと、それは向源が決めることです。私には私の期待もありますが、向源は向源で良いように進んでもらえたらと思います。
まあ、それはそれとして気になることはたくさんあるので、今度取材させてくださいねと友光さんには言ってますけどね(この記事見ても、逃げないでね☆)。