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檀家さんからのお布施は8%、過疎のお寺を救う長福寿寺モデル

長福寿寺

先日、千葉県の長福寿寺に行ってきました。ここは過疎地域のお寺を変えるヒントが眠っていると、ほーりーが感じているお寺です。

私が顧問を務めているインナーコーリング社の水野社長が、新しい事業モデルを切り開いているお寺事例を勉強したいと仰っていたので、ここは外しちゃいけないと一緒に行くことにしました。

そもそも立地ですが、長福寿寺は千葉県長南町にあります。千葉県の公式サイトにある「県内過疎市町」にも名前が載る筋金入りの過疎です。

茂原駅からバスで20分ほど。周りは開けておらず、アクセスはかなり不便です。観光地からは遠く離れ、国宝・重文クラスの文化財もなし。平安時代に創建された古刹であり、歴史に伴う格式はありますが、条件だけ見ればマイナス面をいくつも挙げられるような、ある意味で日本中どこにでもあるお寺です。

が、しかしこちらの今井長秀住職が個性的です。まず、見せて頂いたお寺の事業目標がこちら。

長福寿寺の事業目標

「年間参拝者数を200万人にする」。これ、単純に365日で割っても、1日に5000人以上が来ないと到達できない人数です。マジかよ。

はっきり言って途方もない数字です。ですが長福寿寺は年間参拝者数3000人だったところを、5年間で年間参拝者数15万人にまで拡げた実績があります。

 ※2021年に改めてお聞きしたところ、年間参拝者数はさらに増えて20万人になったとのことです。

また、長福寿寺の突出しているところは、檀家さんから10年以上、護持費などのお金は頂いてないことです。葬儀などの一時的なものを合わせても、お寺全体の収入からは8%しかないとのこと。

それでは長福寿寺を経済的に支えているものは何か? それはお守り、ご祈願、人形供養との答えでした。

長福寿寺が金運を押し出すわけ

長福寿寺は金運を前面に掲げたお寺です。このことについて今井住職に尋ねると

「笑顔でいたり、感謝の気持ちを持ったりと、お金の集まる人と幸せに生きることの条件は、実はそれほど違いがない。そうであれば、幸せよりも金運で説いたほうが具体的だし、人の心に響く」

というお話でした。

そして金運を高めるために伝えていることが幸せ作りの方法であり、仏教の言葉だということです。

パンフレットにも法華経から抜き出した教えが、端的に書かれています。

長福寿寺・法華経の教え

また、本堂の階段や壁一面には、元気が出る言葉も並んでいます。私が初めて長福寿寺をお参りした5年前、この光景にはびっくりしました。その時から見たらちょっと文字がかすれてきてますが、改めてお参りしてもじんわりと響きます。

長福寿寺の言葉

なお、お守りは通常のお寺よりも高めです。これは高価格を設定することで受ける方が本気になり、願いを真剣に込めるためとのことでした。

長福寿寺のお守り

500円のお守りと2000円のお守りでは頂く方の意気込みが4倍変わるかと言えば、そんなことはありません。人にもよるでしょうが、10~20倍くらいは決意が必要です。

もちろん金運なんてすでに有り余っているよという方であれば、たいして変わらないと思われることもあるでしょう。お金自体は絶対的な数値ですが、そこから受けるインパクトは相対的なものです。

なので価格が4倍ならお寺さんはウハウハだねなんて思う方もいるかもしれませんが、こうした横並びから飛び出すためには見えるところも見えないところも、とてつもない努力や試行錯誤が必要になります

場合によってはお守りを手に取っていただくのに、普通のお寺の10倍以上のハードルが必要になるわけですから。

ちょっと気合を入れないと手が出ない料金設定。そしてそれでも踏み出してみたいと思えるお寺自体のメッセージ性と精巧なお守りのデザイン。この写真を見るだけでも、最低5つは工夫が見受けられます。なのでほーりーも金運にあやかろうと、思わず求めてしまいました。

事業目標にも書かれていますが長福寿寺には、

《おもしろく》、《わかりやすい》ところから入って、《ありがたい》ところへ抜ける!

という言葉があります。

いきなり「ありがたさ」だけ強調されても、人はついていくことができません。一方で「おもしろく」「わかりやすい」だけだと、お寺でやる意味が薄れます。

長福寿寺の入り口には、以下の注意書きもあります。

長福寿寺の注意書き

入りやすく、しかし骨太の祈りの場を作る。それが「金運」というキーワードに貫かれています。

吉ゾウくんに込められた意味

長福寿寺の吉ゾウくん

長福寿寺にお参りに来ると、何よりも目立つのは本堂前に立つ二体の象です。名前は吉ゾウくんと、結愛(ゆめ)ちゃん。長福寿寺にはお坊さんが護摩修行をしていると、火炎の中に一頭の象が舞い降りてきたという話が残されていますが、そこに出てくる象がモチーフになっています。

願いを叶える象がいる。ほーりー的に言えば、黄金文脈の効いたお寺作りです。

参考:信仰につながらない寺社イベントには、黄金文脈が足りない

そしてこの象がシンボルとなり、千葉県の観光案内やガイドマップに長福寿寺がよく載るようになりました。またメディア等でもたびたび話題になっています。

長福寿寺のメディア出演

しかしこの吉ゾウくんについても今井住職に伺うと、さらに面白い話がぽろぽろと出てきました。

一番なるほどと思ったのは、象のキャラクターを出すことで、住職が代替わりしても後任者が引き継ぎやすくなるというお話です。

今井住職はかなり個性的なお坊さんで、自分を売り出した方が人気が出るんじゃないの? と言われることもよくあるそうです。しかしそれをしてしまうと引退した時、人がガタッと来なくなることを懸念されています。

私自身はお坊さんにもっと顔と名前を出してほしいとよく言っていますが、長福寿寺のような大勢の参拝者を呼ぶモデル構築では確かに大切な話です。

お坊さんに顔出し勧める方針をやめるつもりはありませんが、世代をまたいでお寺が受け継がれていくためには何が必要か。ほーりーにとっても、またひとつクリアな視点が見つかりました。

地域が活性することで、お寺も繁栄する

長福寿寺が大切にしている目標には、地域が活性することもあります。

お寺だけが裕福になっても仕方ない。ましてや経済的に苦しい檀家さんに頼り、お寺が周辺住民の悩みの種になるようでは本末転倒。長福寿寺に人が集まり、それが長南町にも波及することを心がけなければいけないと、強く話されていました。

これも年間3000人だった参拝者が15万人になっている時点で、地域からは必要不可欠な存在と認知されてきたようです。

私たちが出かけた時もバスの運転手さんが、長福寿寺までの道を丁寧に教えてくださったり(しかも質問したわけでもなく、運転手さんから「お寺に行くの?」と、声をかけてくださって)、また近所にあるコンビニからは感謝の言葉を頂いたとおっしゃられていました。

そして参拝者が一過性の波で終わらず、一年を通して訪れることにも気を配られています。長福寿寺はもともと紅花で有名ですが、放っておいたら開花時期(6月)しか人が集まりません。

しかし種まきや花を育てるイベントを開催し、べに花アイスやそばを用意するなど、一年を通して楽しめる工夫がされています。

また金運を中心に毎月様々なイベントを企画したり、もっと広域に目を転じて長南町の他のお寺を巻き込んでスタンプラリーを計画するなど、長福寿寺は常に全体が賑わう仕掛けを打ち続けています。

長福寿寺のパンフレット

特定の日だけどどっと人が押し寄せる場所は、かえって地域の負担になることもよくある話です。しかし常時一定の人数が来ると、それは血液のように地域経済を循環させます。

海水浴場やスキー場でよく議論されることですが、季節ものだけだと雇用が安定せずにスタッフのレベルを上げることもできなくなります。

一年を通じて人が集まるお寺は、地域に取ってかけがえのない存在になるのです。

ということで、、、

今井住職と話をしていて印象的だったのが、お寺には必ず何かがある。それをどうキラーコンテンツにしていけるかというお話でした。

この、「お寺には必ず何かがある」という意見は私も同感です。私はいろんなお寺に行く時、「うちには何もありません」とお寺の方からよく聞かされますが、本当に何もなかった試しが一度もありません。

また、仮に何もなかったとしても、そこには仏教という超巨大コンテンツ(と、ここではあえて言いますが)があるはずです。

そうしたお寺ならではのものを見つけ、吉ゾウくんのように間口となるよう広げていけばいい。私も小さな階段や黄金文脈で似たようなことをたくさん語っていますが、長福寿寺は改めてそうしたものを地で行っているお寺であることを確認しました。

ただしこのモデルが参考になるかはお寺に何があるかではなく、お坊さんがどこまで覚悟して新しいものを生み出せるかだというお話もありました。檀家さんの護持費をなくしたお寺運営は実際に周りから批判や中傷も受けていますし、それらに簡単にくじけるようだとやろうとしてもできないでしょう。

長福寿寺の挑戦は、これからどう拡がっていくのか。じっくり追いかけていきたいお寺です。

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長福寿寺の吉ゾウくん

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