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生活困窮者が駆け込める『せかいビバーク』は、お寺にも負担が少ない

 2022年も残り1カ月弱となりした。楽しいことやいろんな希望もありましたが、今年を振り返ったときに日本経済が一段と厳しさを増したことは気になる要素です。このブログを読み返しても、そうした状況を伝えたものが複数ありました。

 コロナ・戦争・円安は、困窮者を追いつめる要因になっていく

 20代は他の年代より、コロナ(自粛・不況)で追いつめられている

 界王拳の反動で、日本に大量解雇・倒産時代がやってくる

 コロナ禍での行動制限で追い詰められている方のデータまとめ

 簡単にまとめると、過去2年行われた大規模な自粛や経済を縮小させる施策のツケが、だんだんと降りかかってきた形です。

 さらに年末は、仕事を失ったり収入減少に直面する方の多い時期です。公的機関もお休みに入り、その支援も止まりがちになります。リーマンショックの時には年越し派遣村が話題になりましたが、コロナを経て同じような問題も深刻さを増しています。

 そんなわけで今回は、今年取材させて頂いたお寺の中でも、これは広まってほしいと思うものを紹介させて頂きます。

光照院が行っている『せかいビバーク』

 東京・光照院の吉水岳彦住職は、路上生活者を対象にした夜回りや炊き出し活動を行う『ひとさじの会(正式名称:社会慈業委員会)』を立ち上げた方で、貧困問題の最前線で身体を張って活動しているお坊さんです。

光照院の吉水岳彦住職

 以前、私が連載している月刊住職の記事用に取材させて頂いたときは、「コロナによって路上生活者の人数は一気に増えた」とお話しされていました。特に緊急事態宣言の影響は、非常に大きかったとのことです。

 突然解雇されて収入がなくなり、行き場をなくしてしまった方や、限界まで耐えたものの所持金をすべて失い、明日の食事もままならない方がいます。だんだんと気温も下がってくる中、こうした方は過酷な現実にさらされています。

 そのような状況で光照院では、新たに『せかいビバーク』という取り組みを始められました。こちらは住む場所を失った方が緊急時に駆け込める場を提供するもので、一般社団法人つくろい東京ファンドによって運営されています。そしてこれはいろんなお寺でも比較的負担が少なく、さらに困っている方にはダイレクトに助けになるものではないかと私は考えています。

 その仕組みは以下の通りです。まずは切羽詰まった方が事前に登録された場所に行くと、緊急お助けパックを受け取ることができます。この中には携帯の充電器や電池、一日分の宿泊費とクオカード、路上脱出SOSガイドが入っています。

『せかいビバーク』の緊急お助けパック

 この受け取りスポットには、都内の飲食店や書店、会社のオフィス、法律事務所、教会など、様々な場所が登録されています。お寺はまだ少ないですが、光照院の他に仙蔵寺というお寺も参加していました。

 せかいビバークは受け取りスポットになっても、何らかの料金が発生することはありません。また相談支援を行うわけではないので、時間的な制約も少なくて済みます。

 行うことは「今夜安心出来る場所で過ごすことが出来ず、翌日に公的な相談窓口へ相談される方」に、専用受付システムに従って受付を行い、パックをお渡しすることだけです。この対応はせかいビバークのサイトによると、所要時間5分程度と説明されていました。

 またあくまで緊急の危機回避手段であるため、同じ人は年に一度までしかこの仕組みを利用することはできません。ほーりーは知り合いのお坊さんから生活に困った方にお金を渡したら、何度も通ってくるようになってしまいかえってトラブルになってしまったという話もお聞きしました。

 これは全く異なる場所で複数人から聞いているので、お寺にとってはよくあることの一つなのでしょう。善意で始めたものが結果的に悪い方に転がってしまうのは悲しいことですが、せかいビバークは制度上それを防ぐことができます。そして公的な支援先へとつなげることも約束しているので、生活再建のきっかけにもなります。

 また吉水住職はこの取り組みのメリットは「絶望して諦める前に、支援の手が差し伸べられること」と仰っていました。

 一度路上生活に入ってしまうと、2~3か月で立て直す気力を無くしてしまう方は少なくないそうです。そうなってしまえば周りがどれだけ手を尽くそうと、本人が一歩を踏み出せなくなります。しかしこの『せかいビバーク』は路上生活に陥るまさにその寸前で、助けに入ることができます。

 さらに緊急お助けパックの受け取りスポットにはいろんなお店もありますが、「お金のない方が飲食店に行くのは抵抗を持つ方もいるが、お寺だとそのハードルは低くなる」とのお話もありました。

 確かにお金を払って食事をする場所に、無一文で入るのはとても勇気がいります。それがお寺であれば、勇気をもって助けてほしいと言いやすくなるかもしれません。

 この『せかいビバーク』は東京都内で行われている活動ですが、他の地域でも似たような仕組みがすでにあったり、これから作られる場所もあるかもしれません。困窮者の支援活動と聞けば、ものすごく大変そうと身構えてしまいますが、お寺のようにすでに「場」を持つ方にとっては、意外と参加しやすいものもあるのではと感じる活動でした。

ということで、、、

 生活福祉資金の特例貸付制度など、これまでコロナで経済的に行き詰った方には様々な支援策が用意されました。しかしその多くは貸し付けであり、これからそのお金を返すフェーズに入ります。ただコロナ前からぎりぎりの生活をしていた方にとって、たとえ収入が以前に戻ったとしても返済は難しいものでしょう。

 さらに金銭面以外でもコロナによる社会活動の停止は、人間関係の断絶やうつ病の増加といった様々なダメージを残しています。20代の自死自殺者が急増するなど、すでに決して取り戻すことのできない犠牲もたくさん出ていますが、せめてこれから生活が成り立たなくなる人とどう向き合っていくかは、日本社会全体の課題です。

 2023年はどんな年になるのか。ニュースを見ても様々な商品の値上げや増税議論が流れており、楽観視できる状況ではありません。

 お寺にとっても厳しい時代のため、お坊さんに無理をしてでもとは言えませんが、それでもお寺が少しでも苦しむ人の助けになって頂けたらと思います。こうした『せかいビバーク』のような仕組みが、お坊さんたちにもやってみようと思う契機になれば、ありがたい限りです。

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光照院の吉水岳彦住職

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