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『産宗官』の重要性。これからの寺社が押さえるべきキーワード

産宗官

2016年も半月過ぎたので予言します。これからの寺社で重要になるキーワードは『産宗官』です。

上の写真は、先日講師をさせて頂いた地域おこし協力隊講習会のひとコマ。私をお呼び下さった井門観光研究所の井門隆夫さんが、「これから宿坊ビジネスを紹介しまーす」と、煽ってくださった場面です。

公的な仕組みである地域おこし協力隊と、宿坊をビジネスとして考える。これもひとつの産宗官です。

とはいえ、唐突に『産宗官』なんて言葉を出されてもと言われそうなので、まずはよく言われる「産学官」から紹介します。

「産宗官」のもととなった「産学官」

「産学官(産官学)」は大学などの学術機関が開発した技術を企業やNPOなどの民間組織に移転し、新しい市場や商品を生み出す連携の仕組みです。この両者のマッチングに制度面の整備や補助金の交付が行なわれれば、産官学の連携となります(大ざっぱな説明なので、他にも様々な形があります)。

実際にこれは多くの成果を上げており、例えば文部科学省で行われた「産学官連携担当役員等説明会」の資料が公開されていたのでそちらからピックアップすると、約240の大学が「産学連携本部」を置き、「大学等産学官連携自立化促進プログラム」を実施している大学も86あるそうです(平成24年時点)。

この資料、シンプルですがいろいろと面白いことが書いてあります。

産学官連携政策の考え方

• 「よいモノ(技術的)を作れば売れる」という考えは過去のもの

→よい研究成果、よい知的財産を創出しても、それだけでは大学の研究成果が社会の発展につながらない

→社会的ニーズ・課題等の分析・把握が必要

•産学官連携はあくまで手段であり、その目的を達成するためには、大学等の考えだけではなく産業界のニーズや社会的課題の融合を図ること

→産学官連携活動により社会の価値創造を行うことが、最終的には大学等のブランド価値を高めることにつながり、教育研究活動にも好循環を生み出す

ニーズ(需要)とシーズ(種)なんていう言い方もありますが、シーズはニーズと結びつけてこそ、花が開くんですよね。

そして「産宗官」とは

そんでもって、産宗官。これは上記の大学を寺社に置き換えても、そのまま通用するのではないでしょうか。仏教や神道がいかに良いものであろうと、社会的ニーズや課題と結びつけずに布教したって世間はスルーします。

宗教がより良く生きることを目指した教えであれば、大学と同じように「良いものだから、それだけで世間に受け入れられる」という考えは手放すべきです。

いや、まあ。分かる人だけ分かれってのが宗教なら、それはそれで良いのですが。

そこで私はもともと、寺社とビジネスをマッチングさせる「寺社ビズ」を通して、様々な企業からのビジネス相談を受けていました。ですがここに官公庁を加えた「産宗官」もありかなと最近は考えています。

私がお坊さん講習会で講師をさせて頂く時、宗派を問わずよく言われたのが、「○年前なら、堀内さんを呼ぶなんてあり得なかった」という言葉です。

お坊さんでも大学教授などの権威でもない、草の根だけで活動している私みたいな人間に白羽の矢が立つ。去年、寺院消滅という本も大きな話題になりましたが、お寺は今変革期を迎えています。

一方、これまで政教分離の名の下に、寺社とは最も距離を置いていた官公庁は、財政が逼迫しています。これ以上ハコモノを作る余裕のない行政にとって寺社の施設は魅力で、特に東日本大震災が転機となり、日本中で宗教施設との防災協定が結ばれました。

さらに昨年、テレビ業界でお坊さんバブルが起きました。他にも寺社に興味を持つ人は年々増えており、伊勢神宮と出雲大社の遷宮ブームや高野山開創1200年など、企業に取って宗教は大きなチャンスファクターです。

私が寺社業界をウオッチしているのはこの10数年のみですが、それでもここまでこの3者が近づいた時期はありませんでした。そしてこれから必要となるのが「産宗官」という考え方です。

この分野のスタープレイヤーは、お坊さんでありスーパー公務員、ローマ法王にコメを食べさせた男として限界集落を甦らせ、テレビドラマのモデルにもなった高野誠鮮さんがいます。現在は自然栽培の普及に務め、日本の農業を世界に売り込む活動に従事する一方、石川県の妙成寺に自然栽培で育てられたお米や野菜などしか取り扱わない寺の駅「寿福」をプロデュースされています。この動きは石破茂地方創生担当相も視察に訪れています。



 ローマ法王に米を食べさせた男 過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか? (講談社+α新書)

 高野誠鮮 著

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また、ゴールドマン・サックス時代に日本の不良債権が20兆円にも上るとレポートして「伝説の金融アナリスト」と呼ばれ、現在は国宝や重要文化財の修復を手がける小西美術工藝社の社長を務めながら、様々な文化財活用の提言も行うデービッド・アトキンソンさんも有名です。この方が書かれた『新・観光立国論』はもはやインバウンドの教科書です。



 新・観光立国論

 デービッド・アトキンソン 著

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ですが、産宗官という言葉を私が作ってしまうくらいに、これは圧倒的に人材の足りない領域です。行政周りを見ても企業周りを見ても宗教と手を組む意識は希薄で、同じようにお寺や神社から行政と手を組もうという考えも一部でしか発言されていません。さらにこの三者連携となると、京都観光を除けばかなり限られるのではないでしょうか。

ツイッターで検索しても、そんな言葉呟いている人は誰もいませんし。

ツイッターで産宗官

実際に政教分離や坊主丸儲けなんて言葉が示すように、行政・ビジネスと宗教はそれぞれ相性良いものとは見られていません。しかし、この大きな壁を突破できるのが宿坊です。それを裏付けるように、私がアドバイザーを務める全国寺社観光協会の宿坊創生プロジェクトには、名だたる企業からの問い合わせが殺到(公開できるようになったら、順次公開していきます)しています。実はやり方さえ見えてくれば、行政も企業も寺社に興味を持つのです。

宿坊を作り出せば活性が期待できるのは、寺社だけではありません。旅行業界はもちろん、建築や家具、食品、IT機器、保険など、様々な産業に広がります。さらに地域経済にも波及しますし、それは地方行政や観光立国化を目指す国家ニーズにも合致します。

産宗官なんて言うと、今はまだほとんどの人が鼻で笑うでしょう。ですがそれだけにチャンスであり、現実的にはすぐにこの流れが出てきます。産宗官が世の中をハッピーに変えるなら、躊躇すべきではありません。私の寺社旅研究はこのステージを見据えています。

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