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熊本地震で半壊した庫裏を宿坊によみがえらせた、了廣寺の奮闘記

01.宿坊
 

先日、熊本の南阿蘇村で新たに宿坊をオープンした了廣寺に宿泊してきました。最近、様々な過疎地域で頑張る寺社を取材しているほーりーですが、この南阿蘇村も過疎に指定された地域です。

熊本県の資料(pdf)を見ると、「過疎地域とみなされる市町村」に該当しています。

そしてこちらは2016年の熊本地震で、大きな被害を受けた土地でもあります。ほーりーは熊本空港まで車で迎えに来て頂き、阿蘇山を経由して了廣寺に向かったのですが、途中でがけ崩れの跡を何カ所も見たり、道路が寸断されて迂回路ができている場所もちらほらありました。

熊本地震の跡

2年経って訪れても、改めて大変な地震だったのだと感じますね。

そして辿り着いた、了廣寺。こちらは田んぼに囲まれたのどかな風景の中にある、ちょっとノスタルジックなお寺です。家ではカエルの合唱などあまり聞けないほーりーには、まさに別世界。こんなお寺に泊まれるなんて、それだけでワクワクします。

了廣寺の本堂

宿坊は本堂の隣にある庫裏を改装して作られています。

了廣寺宿坊

中に入ると客室は想像以上にオシャレな空間でしたよ。3室+トイレ・お風呂という作りで、一日一組限定です。

了廣寺宿坊の客室

熊本地震で建物が半壊しながら、宿坊を開設

ほーりーはこの了廣寺に2泊させて頂き、小林智征住職からこれからの宿坊の方向性についての相談を受けていました。

了廣寺の小林智征住職

その過程でこの宿坊がどのように生まれたかをお聞きしていったのですが、これがまたものすごい苦難の連続なのですよ。

まず、冒頭で紹介した2016年4月14日に発生した熊本地震。この時、なんと小林住職はすでに宿坊作りに取り掛かっていました。保健所に相談に行き、計画を立てて建物のリフォームを開始。そして工事のための足場が組まれたところで地震が発生します。

そして客室にしようと考えていた庫裏が半壊。物資を運んだオスプレイが上空を飛んでいた生々しい状況で、当然ながら宿坊作りは中断します。

現在の安全性などに問題はありませんが、ほーりーが宿泊した時も庫裏と本堂をつなぐ屋根は傾いている状態でした。

了廣寺の屋根

各地の復興作業のため、大工さんの人出も不足。こうして宿坊オープンは2年も延期され、予算も200万円で計画していたものが700万円と大幅に増加。

それでも災害復旧で来られた専門家のアドバイスを受けながら、小林住職は自分で大工・左官仕事なども行います。MagicPlanというアプリを使って自分で図面を引き、クラウドソーシングで立面図作成を依頼するなど、IT活用も駆使します。

そしてようやく2018年5月にオープン(ただし正式な稼働は6月)までこぎつけるという、ものすごくたくましい工程を経て生まれた宿坊なのでした。

小林住職のマルチプレイヤーっぷりがすごすぎる!

自分で図面を作って大工仕事も行っていった小林住職。この方の多彩なスキルにも注目です。まずもともとお寺の住職になる前から、旅館やペンションの予約管理を仕事としてやっていたとのこと。

そして農業を行い白ネギなどを育てたり、お寺の境内に工房を構えてパンも作っています。

了廣寺・小林住職のパン作り

こちらはなんとバターや卵などを使わずに作る、精進料理としても通用するパンです。宿坊に宿泊しているときにも何度か頂きましたが、とてもしっとりとした優しい口当たりなんですよ。

さらにいろんなお坊さんが宿坊を作るにあたって壁に当たりやすい、
行政への書類申請も自分で行われています。それも民泊ではなく、旅館業の簡易宿所営業許可を取っているのですから、すごいの一言です。

前述した大工仕事も電気・水道以外は自分で行ったとのことですし、当然ながらお坊さんでもあります。人口の少ない町でお寺だけでは成り立たなかったための生き残り策と言うこともあるでしょうが、そのいろんな経験値が宿坊に見事に生かされているわけです。

小林住職のお話を聞いていると、逆境を糧にするとはこういうことかとうなずかされますね。

あと、ちなみに宿坊の食事は奥さんが作られていますが、こちらも見た目が美しくて味も絶品。連泊した方のために料理のバリエーションを増やすことが課題と仰られていましたが、それでもとてもハイレベルですよ。

本堂の横に自生していたうどの天ぷらとか、おからのコロッケとか絶品です。

了廣寺の精進料理

ほーりーが了廣寺の宿坊について話をしたこと

小林智征住職とほーりー

不屈の精神と飽くなきチャレンジ魂。それだけでファンになりそうな了廣寺ですが、せっかくなのでほーりーもその魅力を引き出すための提案をいくつかさせて頂きました。

一つ目はやはりこの熊本地震を乗り越えて、宿坊を作った工程を整理すること。今回のブログ記事でもそれを意識してみましたが、人生が上手くいっていない方にとって、この了廣寺に宿泊して住職と語ることは自分を奮い立たせるひとつの機会になるでしょう。

だってね。改めて当時の南阿蘇村ニュースを検索すると、道路は寸断されて生活も産業も大打撃を受けていましたし、これからいよいよ宿坊を作ろうと思った矢先に地震で建物が崩れたことは、当時の小林住職の心境を考えると涙まで出そうです。

そして二つ目は「地域」と「お寺」と「仏教」を、シームレスにつないでストーリー化すること。この南阿蘇村は湧き水の豊富な土地です。お寺から歩いて5分ほどの場所にも、竹崎水源があります。こちらの湧水量は毎秒2トン。そして周辺を歩けばあちこちで水源地の看板に行き当たります。これらは熊本地震の時にも枯れなかったそうですし、超軟水でまろやかな口当たりです。

竹崎水源

了廣寺はどこかに行ったついでに寄れる、アクセスの良いお寺ではありません。はっきり言ってしまえば、了廣寺自体を目的にする人しか来ないお寺です。

それであれば、どこまでこの了廣寺に興味を持って頂けるか。綺麗な水のアピールだけではその辺のペンションと変わりませんし、湧き水を活かした仏教体験や説法スタイルもいくつか提案してみました。

こうした土地の特性と仏教を組み合わせると、都心部のお寺にも近所の旅館にも真似のできないオンリーワンの世界が作れます。これはほーりーがいつも言っている、黄金文脈という考えですが、そのメリットは二つあります。

○多くの人が興味を持つテーマから、お寺が伝えたいことまで階段状につなげることができる
○独自のストーリーを二つ以上組み合わせるため、他者が真似することが難しくなる

黄金文脈の詳細は、こちらをどうぞ。

信仰につながらない寺社イベントには、黄金文脈が足りない

さらに、もう一つ。これはほーりーからの提案と言うより、小林住職がやりたいと仰っていたので、あれこれ事例や工夫の紹介をさせて頂いたものですが、宿泊者と話をする場面を作っていきたいとのこと。

そろそろ鳥取県の光澤寺モデルと言っても通用しそうなものですが、住職と一緒に食事をしたり、お酒を交えて語り合ったりという時間ですね。

宿泊者が涙した宗元住職の法話は、宿坊で仏教初心者と話し続けた産物

これは実際に行うとしたらものすごく大変なので、告知の仕方や力のセーブ方法など、住職がつぶれずに続けられる工夫も紹介しながら、いろんな方に仏教を伝えたり悩みを救い上げたりする場作りについてもお話させて頂きました。

ということで、、、

了廣寺は始まってまだ間もない宿坊ですが、オープンしてすぐにフロリダの旅行者から予約が入ったとのこと。さらにその後も国内外を問わず、様々な方の予約が続いています。これからは血縁や地縁だけでなく、知識や興味、コンセプトで人が集まる知縁の時代です。

そのお寺に何があるか、どんなことができるかがはっきり伝われば、遠く海外からだって人はお寺(それも日本人もほとんど行ったことがないような土地まで)にきてしまうわけです。

東京の人が博多に来たついでに南阿蘇村へ行くのは大変ですが、アメリカやヨーロッパの人が東京に来たついでに南阿蘇村へ行くことは、精神ハードル的にはそこまで高いことではありませんしね。

了廣寺には様々なとがったコンセプトがありましたが、そちらを育てていけばきっと世界中から人が訪れるお寺になります。少なくとも、
そんなことを予感させてくれた三日間でした。

ちなみに余談ですが了廣寺には、熊本地震を乗り越えたアイドルもいます。地震で崩れた壁から出てきて、了廣寺が引き取った子猫がいてウォールと名付けられていました。

寺ネコとしてすくすくと成長したようで、お勤めが行われるとお参りに来たりもしますよ。

了廣寺のお勤めと猫

なかなか人懐っこい猫さんで、初めて顔を合わせた私にも近づいてくれました。熊本の招き猫にもなってくれるかもしれませんね。

そんなわけで、了廣寺。宿坊研究会にはほーりーの宿泊記も書いていますので、ご興味あればこちらもどうぞ。

熊本・了廣寺の宿泊体験レポート

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了廣寺のお勤めと猫

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