平均寿命の延伸が葬儀を簡略化させてきた中で、お坊さんにできること
最初は趣味の旅行から始まったほーりーの寺社旅活動ですが、20年経つうちに霊園会社の顧問に就任したり、お坊さんの講習会で講師を引き受けたり、全日本仏教会の会報誌や月刊住職なんて雑誌で連載を持ち、「葬儀の簡素化」「直葬増加」「寺院消滅」「墓じまい」といったキーワードが日常的に耳に入るようになりました。
我ながら、恐ろしいほどドハマりしているぜ。
そしてこれから檀家数が減少して寺院収入が減る中で、お寺にはどのような存続策があるかなんてストレートな講演依頼も頂いています。
詳細は上記記事をご覧頂けたらと思いますが、簡単にまとめると
○お寺に布教&経済が両輪で回る仕組みをたくさん作り、お城の石垣のように大小様々なパーツを組み合わせれば、お寺の土台はもっと堅固になる
○そのために提案しているのが「宿坊」「仏前結婚式」「企業セミナー」「信徒創造」「祈願・祈祷寺化」の5つ(もちろん、それ以外にもたくさん必要)
という話です。
そしてこれらの記事は思ったよりも反響があり、先日も福井のお坊さんから話を聞かせてほしいとメールを頂き、お会いしてきました。
平均寿命の延伸が、葬儀を簡略化させてきた
とは言え、ほーりーは檀家さんからのお布施が減っていくから、それを補う何かを作ろうとだけ言っているわけではありません。宿坊や仏前結婚式などはこれまでお寺が行っていた葬儀法要の意味を伝える意味でも、役に立つと考えています。
しかしもうちょっと根っこの話になりますが、そもそも葬儀の簡素化や直葬増加、先祖代々のお墓が放置されたり移転されていくことは、信仰心の低下が主原因ではないと思っています。
ほーりーの分析としては、以下の3つが原因です。
○人間が住む土地を変えながら暮らす人口流動化
○世代間の資産格差(生涯年収や年代別の年金受給額など)
○平均寿命の延伸
こうした社会事情を無視して、伝統の軽視、個人主義の台頭、家族の崩壊といった論調で個々人に問題があるかのように批判するのは、いくらなんでも酷じゃないかと思うわけです。
それで今回は、平均寿命の延伸について。
内閣府のサイトに載っている平均寿命の推移(pdf)では、1950年に男性58歳、女性61.5歳だったものが、ぐぐぐんっと伸びて現在は男性80歳、女性85歳超になっています。
シンプルに言えば、この60年で日本人は20~25年も長く生きるようになったわけですね。
そしてこれは過去にブログで何度か書いていますが、若くして亡くなった方と100歳を過ぎて大往生するのとでは、遺族感情に違いがあります。
私が顧問を務めるアンカレッジでも、家族よりペットが亡くなる方が号泣する人も多いという話が出ていました。それを薄情と思う方もいるかもしれませんが、「死に対する納得感」が悲しみの差につながることは十分にあり得ます。
寺院消滅社会を止めたければ、健康寿命の増進は大切だ!
日本は世界でもトップクラスの平均寿命を誇る国です。一方でこれからは健康寿命の増進に力を注ぐべきとも言われています。
平均寿命と健康寿命の推移が、林玲子 国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部長のレポートに載っていたので紹介させて頂くと
となっています。介護不要でいられるのは男性は76歳くらいまで、女性は82歳くらいのようです。1990年代後半あたりから平均寿命が上がっても、健康寿命(定義の差異はありますが、上のグラフでは「介護不要寿命」という言葉で表されています)が追い付いていないのが見て取れますね。
しかし日経新聞の記事によると
厚生労働省は9日、介護を受けたり寝たきりになったりせず日常生活を送れる期間を示す「健康寿命」が、2016年は男性72.14歳、女性74.79歳だったと公表した。前回(13年時点)と比べ男性が0.95歳、女性は0.58歳延びた。平均寿命との差も男女とも縮小した。厚労省は食生活の改善などが寄与していると分析している。
と、近年は健康寿命が(わずかですが)延び始めていることも報じています。
介護失業、介護うつは社会問題にもなっています。介護期間の長期化により、心身ともに(あるいは経済面まで含めて)限界を迎えた後に親が亡くなったとしたら、そこからていねいな葬儀を行う余力がなくても不思議ではないでしょう。
少子高齢化により、介護者の減少と要介護者の増加が一度に訪れたら、日本自体がパンクしかねません。そこで必要になってくるのが、お寺が健康寿命の増進を図るという考え方です。
寺子屋ブッダが、新しい挑戦を始めたよ
そしてこの問題に切り込んでいこうとされているのが、寺子屋ブッダさんです。来月に医師と僧侶がタッグを組んだ「ココロとカラダの健康塾」を始めます。
講師をされるのは、以下の方々(敬称略)。
加藤直哉(健康増進クリニック 副院長)
井上広法(僧侶)
川野泰周(僧侶・精神科医)
加藤貴弘(相武台脳神経外科 院長 )
早島英観(僧侶)
大來尚順(僧侶)
ココロのパートとして「自分を認める」「他者を認める」「良きつながり」を、カラダのパートとして「食」「運動」「休息」を、それぞれレクチャー頂けるそうですよ。
先日、主宰されている松村和順さんにお話を伺いましたが、健康寿命延伸産業はこれからの伸びが期待される分野でもあり、かつ社会課題への解決にもつながりお坊さんが加わっていく意義も大きいとのこと。
ご興味ありましたら、寺子屋ブッダさんのサイトをご覧ください。
ということで、、、
このところ終活セミナーやエンディングノートは盛んですが、この健康寿命の増進をお寺はもっとアピールしても良いと思うんですよ。古くから言われるピンピンコロリや、ぽっくり信仰にも通じますが。
実際問題として、現代の日本では「長生きのリスク」という言葉も盛んに使われています。人生の終盤に高額治療や介護費用が重くのしかかり、しかし平均寿命だけが延びていくことは、年配の方だけでなく若年層の人生設計にまで影を落としている話です。
これはお坊さんだけでなんとかできる問題ではありませんが、様々な専門家と手を組みながらお寺社会がアプローチをかけていくことは、多くの方の人生を豊かにするためにもお寺を次世代に伝えていくためにも大切ではと考えています。