スター坊主のキラキラした光に焼かれて、ばた足の努力を見ない人達
先日、登場したお坊さんの日めくりカレンダー『スター坊主めくり』。これに対して一部の方々が、また忙しくなってきました。
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特にざわついたのが「スター」という言葉が、頭に冠されたところでしょうか。これは「美坊主」以来、良くも悪くもいろんな人を沸騰させる、久々のバズワードかもしれません。
そしてこれを見た方の反応が、ほーりーの見る限りでは3つに別れました。
○面白いものが始まった
○俺が選ばれてない。そうだ、裏坊主めくりやろう
○スターとか調子に乗って、仏教を貶めている
裏坊主については説明すると、この日めくりカレンダーに登場しなかったお坊さん(一部、登場した人も)が、同じようなレイアウトを用いて、勝手に自分の日めくりページを作っています。
Twitterでハッシュタグを見るとだいたいわかるので、ご興味あればご覧ください。
スター坊主は、仏教を貶めているのか
そしてほーりー的にやはり考えてしまうのは、3番目の「仏教を貶めている」という意見です。
今回、特に気になったのは、世間が持つ僧侶のイメージに、おふざけや悪のりが付け足されていくと、「正しい仏教」を伝える妨げになると語る方が散見されたことでした。
ほーりーはこうした悪ふざけには、二種類あると考えています。
ひとつは自分自身の、衝動的な悪ふざけ。忘れた頃に時々出てくる、冷蔵庫に入ったり、食材を粗雑に扱うバイトテロのようなものが典型ですね。
それに対して本人は真剣だけど、それであるがゆえに世間にこれまでなかったものを生みだして、世間から悪ふざけと取られるものもあります。
両者の違いを見比べる方法のひとつは時間軸です。下のスライドは、ほーりーがお坊さんや経営者の方に向けて何度か講演させて頂いた『タブーを超える7つのアクション』より、本気の示し方を表した資料です。
例えば今回のスター僧侶。ほーりーが最初にこんなの作ってるよと関係者から話を聞いたのは、もう一年くらいは前でした。
つまり中の人達は一年以上も考えて、手をかけて、リスクを取って製作しています。ついでに言えばそうした話が舞い込むのにも、人によっては10年以上も独自のチャレンジを繰り返しています。
自分に『スター』なんて冠を付けることに抵抗を持たない人間なんて、多分ほとんどいないでしょう。ですががそれでもわざわざ付けているのは、そうでなければ企画が成立しないと経験で知っているからです。
それに対して、表面的にスター坊主という言葉(あるいはビジュアルも含めてですが)だけ見て批判している方は、ちょっと思考の深度が遅れています。仏教はこうした物事を一面からだけ見て判断することを、戒める教えでもありますしね。
真面目なものが、メジャーだというあるべき論
そしてほーりーがもうひとつ考えたことは、こうしたスター坊主を批判する方に共通して見られるのは、真面目なものがメジャーでないとおかしいというあるべき論です。しかし私は真剣(あるいは、深刻)なものは、頂点に位置するものの多数派には成り得ないと考えています。
いつもの三角形で表すと、下のような感じです。マラソンを始める人の中でオリンピックの金メダルを目指す人など、一握りしかいません。
それなのにタイムを縮めるより体重を減らすことが目標なんて人間が、ランニングシューズを履くなとか言われていたら、いずれはトップアスリート達も存在し得なくなるでしょう。
先日、とあるお寺の住職と仏教に深く帰依する人の中に、ある意味で気難しさが度を越えていたり、コミュニケーション能力が著しく低い方がよくいませんかという話をしていました。
念のため断っておきますが、仏教に帰依している方ががみんなそうだと言っているわけではないですし、また帰依している方の中でかなりの人がそうだと言っているわけでもありません。ただ、世間と衝突を繰り返したり、生きづらさを人より抱える方の中には、(お寺とまったくご縁のなかった人でも)仏教に救いを求める方が一定数いるという話です。
この感覚にはそのお坊さんも同調されていましたし、ほーりーも「私は常に仏様を拝んでいる」という方にお会いしたら、世間への恨み辛みをひたすら聞かされたことが何度かありました。
そして言いたいことは、こうした人を避難したいのではなく、人間はいつ何がきっかけで精神を病んだり、死にたくなるほど追い込まれるかなんて、分からないということです。そして自分の悩みや苦しみで一杯一杯の人には、スター坊主の一言法話なんて箸にも棒にも引っかからないものでしょう。ただ、そこまででもない人には真面目すぎる話より、スター坊主の方が刺さります。
事前に好感度さえ高まっていれば、もしも人生につまづいた時にもっと真剣な仏教に改めて目が向けられます。そうした観点で考えれば、『スター坊主』は仏教を毀損するものでもなんでもなく、むしろ真面目でどストレートな仏教を補完するものでさえあります。
病院で言えば、緊急病棟は大切ですが、街の小さな診療所や予防医療だって、同じくらいに大切です。しかしもしも緊急病棟だけが重要で、街の病院や薬局の治療はぬるいという社会があるとしたら、それはちょっと病院に行くこと自体が怖くなります。
(ちなみにここでもあえて注釈すれば、人生が無難に進んで一生仏教について深く考えなかったとしても、それはそれで幸せというものです)
ということで
ほーりーはこのカレンダーに出てきたスター坊主31人のうち、26人と話したことがありますが、それぞれ独自でも素晴らしい活動をされている方が集まっていました。それこそ今回はお寺の客寄せパンダ的な、キラッキラッな姿を見せてきましたが、普段はど真剣なことをされている方ばかりです。
仕掛け人の池口龍法さんだって、あほみたいな企画もめちゃくちゃ作っていますが、普段は檀家さんと真剣に向き合ったり、高度な仏教思想の研究などもされていますしね。
ひとときの輝きに目を奪われて、水面下のばた足を見逃していると、本質を見誤る。このカレンダーにはそのくらいの、奥深さがありますよ。そして選ばれなかった悔しさを昇華して、裏坊主として盛り上がる方々にも頭が下がります。