吉野散策
宿坊散策会の企画で、奈良の吉野に出かけてきました。
「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産に登録されたことを祝して、
日本最大の秘仏といわれる金剛蔵王権現像がご開帳されていましたが、
いよいよ6月末をもって終了ということで、駆け込み散策です。
今回は総勢13人。さらにボランティアガイドの方にお願いして、
吉野の魅力をたっぷりと教わりながら、歩いてきました。
まずガイドさんの言葉で一番印象に残ったのは、「けがれ」という言葉です。
修験道では山野に分け入り、穢れを払う。
でもその穢れとは一般に言われる汚れのことではなく
「気枯れ」=気が失われた状態を指すのだそうです。
その気を満たすために山に入る。それが修験道だとおっしゃっていました。
吉野はまさに、そんな山です。
修験の世界に足を踏み入れたわけではありませんが、
桜の吉野はずいぶんと堪能してきた気がします。
西行庵では小さな庵から一人眺める西行の桜の世界を。
吉水神社では四日間の雨に秀吉が待ちわびた一目千本の世界を。
この山では谷の風に煽られた桜が空へと舞い落ちる、
まさに花一色の景色が見られるのだそうです。
6月なので本当に桜が咲いているわけではありませんが、
連なる山に風景が容易に想像できるところが、吉野の良いところかなと思いました。
もちろん吉野は歴史の宝庫でもあり、この辺りの歴史には疎かった私も、
ガイドさんの話によって、思う存分楽しむことができました。
噛みつかれた虻をトンボが食べていった雄略天皇の話から始まり、
吉野から兵を挙げて壬申の乱を平定した天武天皇、
三十回以上も吉野に足を運んだ持統天皇。
時代は下り、源義経と静御前が別れを告げたのも吉野ですし、
後醍醐天皇が朝廷を開き、動乱の南北朝が幕を開けたのもここ吉野です。
西行が庵を結び、芭蕉が訪れ、秀吉が五千人の供を連れて花見をするなど、
歴史上の有名人も至る所で見受けられます。
それをガイドさんのテンポの良い解説で、要所を押さえて歩くことが出来たため、
こんなにもためになる旅行はありませんでした。
さらに私の好きな建築も、重層入母屋造りの金峯山寺蔵王堂、
春日造りの水分神社、日本最古の書院造りの吉水神社など、見所満載。
特に水分神社は本殿・幣殿・拝殿をコの字型に並べた珍しい形で三社を一棟につないだ本殿の、
ちょっと斜めにすかしたアングルが素敵です。
そして忘れちゃいけないのは宿坊達。宿泊したのは竹林院。
もとは聖徳太子が建立したお寺と伝えられ、
大和三庭園の一つに数えられる群芳園は千利休の改築です。
庭園を歩くと吉野の山々を借景とした展望が心地よく、
煙出しが印象的な竹林院の建物が間近に眺められるなど、伸びやかで清々しい庭園でした。
宿坊自体は豪奢な和風旅館ですが、ロビーになんと燕が巣を作り、
しかも2日目の朝に私が一人で眺めていると雛が一羽一羽と巣立っていき、
なんかすごい場面に立ち会ってしまいました。
他にも東南院、喜蔵院、桜本坊と吉野の四宿坊を全て制覇!
これだけでも満足の旅です。
特に桜本坊本尊の役行者は若い頃の修行時代を刻んだもので、
トレードマークのヒゲもなく、穏やかな表情でした。
そしてメインの蔵王堂は、やはりご開帳されている金剛蔵王権現像が素晴らしかったです。
7.3M,5.9M,6.1Mもある三体の憤怒の像は、その大きさに圧倒されます。
この像達はお堂と同時に造られており、大きさ的に外に出ることもできないそうです。
まさに蔵王権現を祀るために造られた祈りの場。
早朝には法螺貝の響く朝のお勤めに参列し、
散策の締めとして再び訪れたときには「発露の間」で間近に権現像と対面しながら、
お祈りさせていただきました。
とまあ、こんな感じで楽しい二日間はあっという間に過ぎ去りました。
それにしても宿坊散策会。散策内容の充実度が、
回を追うごとにどんどんパワーアップしている気がしますね(笑)