コンドームの達人や元AV女優を呼ぶお坊さんが切り開く道
先日紹介した、『イマドキ思春期の悩みとモヤモヤ』。
こちらは浄土真宗本願寺派(西本願寺の宗派)の、「子ども・若者ご縁づくり推進室(キッズサンガさん)」が作った企画です。
コンドームの達人や元AV女優が登壇するなど、今までのお寺ではありえなかった人選ですが、これがすごい広まりを見せています。
コンドームの達人や元AV女優をお寺に呼んだお坊さん
このシンポジウムをコーディネートしたのは、古川潤哉さんという僧侶です。
この方はご自身も佐賀エイズ研究会や佐賀のホスピスを進める会に所属し、学校や各種イベントで性教育やエイズに関する啓蒙活動を行っているお坊さんです。
これって、とんでもないことですよね。
実際に私は、この企画がどのように生まれたのかは知りません。ですがこれだけ刺激的なコピーを並べたシンポジウムが世に送り出せたのは、古川さんや企画した「子ども・若者ご縁づくり推進室(キッズサンガ)」さんの、強い覚悟が周りを動かしたからでしょう。
表面上は色物でも中身まで色物であったなら、きっと日本最大の宗派組織でGOサインは出なかったはずです。そして組織内部の声を気にして表面上まで固いものにしていたら、きっとたいした反響はなかったでしょう。
その意味で古川さんのこれまでの地道な取り組みと、キッズサンガさんのそれを後押しする力、西本願寺全体の社会と向き合う気持ちが合わさって、ようやく生まれた企画なのではと勝手に推測しています。
西本願寺では、思春期・若者支援コーディネーターも養成
また、本願寺派ではそこからさらに一歩進めて、『第1期 思春期・若者支援コーディネーター養成研修会』というものも公開されました。
これはお坊さんや寺族の方のみが対象で、名前の通り若者の支援に携わるコーディネーター養成を目的としています。
いや~、これもすごいです。リンク先で講師一覧を見て頂いた方が手っ取り早いですが、上記のコンドームの達人(エイズ診療の第一人者)・岩室紳也先生や、元AV女優でアダルトビデオが間違った性の教科書になっていることに警鐘を鳴らす紅音ほたる先生を始め、デートDV、性暴力被害、自死・自傷、LGBT(性的少数者)、セックスワーカーなど、若者にとって深刻かつダイレクトな悩みと向き合う第一線の講師が揃いまくっています。
AV男優とか、株式会社典雅の方とか、性戯の味方とか、ちょっと前のお寺であれば、絶対に近づかない方も講師にいますね。でも、こうした生々しい現場にいるからこそ、机上の空論ではない講義ができるわけです。
お、私がフェイスブックで時々やり取りさせて頂く、真宗大谷派(東本願寺の宗派)僧侶・瓜生崇さんも講師にいた。この方はご自身が親鸞会から脱退した経験を通して、カルト対策活動をされています。
これだけの講師が揃って全7日間、15000円というのはすごいです。しかも募集人数も20名の少数制。コーディネーターを育ててお寺が人の苦しみと直接向かい合える場にしたいという、西本願寺さんの想いが強く汲み取れます。
知識以上に胆力が試される講義
たぶん、この講義は知識の習得以上に胆力が試される内容だと想像します。
たとえばこれは築地本願寺で行われたシンポジウムの内容ですが、こんな現場と向き合うわけです(というか、これらはほんの3時間で出てきた話なので、まだまだ序の口なはず)。
苦しんでいる人の実態を生の声はもちろん、様々な専門分野の知識やノウハウ、統計情報など、あらゆることを知ったうえで総合的に臨まないと、「人生は苦であるとお釈迦様は説いてます」とか、「阿弥陀様が全て救ってくださる」とだけ言っても、受け取る側によっては言葉の暴力にすらなりえます。
たとえば自傷行為はよく、「助けてという周りへのアピール」と言われますが、実際にはほとんどの子が一人でこっそりやっています。なので10代のうち10人に1人は切る自傷行為を行っているという調査もありますが、それが表に出ることはほとんどありません。
医学的に言えば身体が傷つくと、痛みを和らげるための脳内麻薬が出ます。これはまだ研究で出た仮説というお話でしたが、この脳内麻薬が心の苦しみを和らげるので、これを求めて自傷に走ってしまうのではないかとシンポジウムでは紹介されていました。
こうした場合、「自分の身体を大切に」「傷つけてはだめだよ」なんて言っても、気にかけたつもりが相手の逃げ道をふさいだだけで、隠れたところで自傷行為をエスカレートさせることにもつながりかねません。
私はお坊さんは苦しみのスペシャリストでなければならないと常々思っていますが、そのスペシャリストとは仏教で語られる「苦」に留まらず、世の中にある様々な専門分野を学び、さらに自分自身も常人より遥かに濃密な苦しみと向き合っている人のことです。
その苦しみに飛び込む最初のステップとしても、こうした体当たりの講義が設けられることには意味があります。そしてただの研究者や支援員ではなくお坊さんが学ぶことで、これまでとは全く異なる手の差し伸べ方も生まれてくるはずです。
お坊さんが他分野の専門知識を得ることで生まれるもの
私は自分で作った電子書籍『お寺を盛り上げる7つのアクション』で、お坊さんに「セカンドスキルを手に入れる」ことと「スペシャリストと手を組む」ことを推奨しています。
セカンドスキルとは、仏教と組むもう一つのスキルのこと。悩みや苦しみの解決に留まりませんが、何か別分野と仏教をかけあわせることで、仏教自体もさらに人の心に響くと感じています。
また、お坊さんほど他の専門家と結びつきやすい人も珍しいです。お坊さんはお坊さんであるというだけで、その辺のサラリーマンよりよっぽど人脈作りは優位です。
今回で言えば、コーディネーターの古川潤哉さんは好例でしょう。
お坊さんの姿をして学生の前で話をするからこそ、エイズや性の問題にも聞く耳が変わりますし、第一級の先生たちがお寺に集まるのも、古川さんのようなお坊さんが真剣に若者問題と向き合っていたからです。
そしてこうした先生たちもお寺で仏教にふれることは、ご自身の専門分野に多少なりともフィードバックがあるのではないでしょうか。だからこそ継続して、熱心に関わってくれているのだと思います。そしてこれらが好循環を生み、多くの人が仏教にふれる下地を作るのです。
コンドームの達人や元AV女優なんて、冗談でお寺に呼ぶことなんてできません。それだけの真摯な想いがあり、したたかな戦略があり、困難にめげない強さがあり、そして人を巻き込む情熱がある。
きっとこの古川潤哉さんの覚悟から、多くのお寺が新しい一歩を踏み出していくだろうと感じています。