お坊さんの収入アップ策。企業研修に僧侶が登壇するcocokuri(ココクリ)
ほーりーは現在、3つの会社で顧問を務めています。そのうちのひとつ『株式会社インナーコーリング』は、お坊さんの収入アップを大きな目標のひとつに掲げた会社です。
残りの二つ、アンカレッジ(お寺の樹木葬)と全国寺社観光協会(宿坊創生プロジェクト)も同様ですが。
お寺離れや寺院消滅が叫ばれる昨今、趣味で始めた宿坊巡りから寺社に関わり、お坊さんの研修会で講師も務めるようになる中、ほーりーの興味は寺社の収入アップの手段を作ることに比重が移ってきました。
単純に言えば、ほーりーが大好きなお寺や神社が消えていく未来はいやだなぁということです。私の人生一個分なんて全国にそれぞれ約8万ずつ(合わせて16万近くも)ある寺社の前では鼻くそよりも微々たるものですが、それでもそこにすべてをぶっこみたいとサラリーマンを辞めて株式会社寺社旅なんて作っています。
そしてインナーコーリング社の顧問を引き受けたのも、「檀家さんからのお布施以外にも、お寺は収入を挙げる道を多様化しないとまずいよね」という理念が共有できたからです。
インナーコーリングとはどういう会社なのか?
インナーコーリング社は、エン・ジャパン株式会社が100%出資するグループ会社です。エン・ジャパンと言えば、求職や転職情報サービスを手掛ける大手として知られていますが、そんな会社がなんでお寺なの? って、思います。
エン・ジャパンの公式サイトから事業内容を抜き出すと
人材採用・入社後活躍サービスの提供
1) インターネットを活用した求人求職情報サービス
2) 人材紹介 (厚生労働大臣許可番号 13-ユ-080296)
3) 社員研修
4) 人事コンサルティング、適性テスト
と、あります。
ここで注目したいのが「社員研修」や「人事コンサルティング、適性テスト」など、入社後のキャリアサポートですね。
さらに企業理念として掲げている言葉は『人間成長』。つまりビジネスの場面での単なる職業紹介に留まらず、そこで活躍した上で人間としてより豊かに生きていける環境作りまでを目標とされています。
「人生を豊かに生きる」こと。ここにお寺と求人情報会社のクロスポイントがありました。
そして新規事業創発にも積極的なエン・ジャパン社には、「インキュベーションルーム」というものがあります。インキュベーションとは「卵の孵化」などを表す英語ですが、株式会社インナーコーリングはこのインキュベーション第1号となったそうです。
つまりエン・ジャパン社が掲げる『人間成長』を、お寺や仏教というフィールドにあるものを活用しながら、ビジネスシーンに取り込んでいきたい。そのために生まれたのがインナーコーリング社なわけです。
この「インナー(=内面にある)コーリング(=良心の呼び出し)」という社名も、お金だけでなく社会的意義のために働くというエン・ジャパンの仕事価値観を表す言葉から付けられました。
インナーコーリングは何をしている会社なのか?
インナーコーリング社は現在、大きな柱としてマインドフルネスを活用した研修サービス『cocokuri』と、お坊さん向け情報サービス『お坊さん倶楽部』の二つを開発しています。
『お坊さん倶楽部』は様々なお坊さんの取り組み、工夫や、お寺で活用できる技術動向、ノウハウを中心にした、お役立ち情報を集めたサイトです。詳細は以下の記事をご参照ください。
参考:宿坊研究会、hasunoha、寺子屋ブッダのノウハウ集結! お坊さん倶楽部
今回は『cocokuri』について解説します。
この「こころのクリエイト cocokuri」は、お坊さんを講師とした研修事業を行っています。特にこれまでお寺で檀家さんや門徒さんなどを対象に広く行われていた法話と異なり、ビジネス研修を柱に据えています。
果たして、お坊さんにビジネス研修の講師なんて務まるのか? もちろんこれまでにも企業研修を受け入れて人気のお寺はありました。しかしそうしたものを行う企業は、ごく一部にとどまっています。
なぜなら多数の企業が本格的に導入するには、それがビジネスに良い影響がある(もっとはっきり言うなら、研修を受けることで収益が上がる)ことが、明確に数字で示せなければならないからです。
それがないと、予算下りないので。
しかし逆に言えば、企業収益が上がることが数字で示せるようになるなら、これはお寺社会にとっても大きなイノベーションにつながります。坐禅指導でワンコインだったものが、一回の研修で一人数万円でも参加者は現れます。
「数字では表せない価値がある」というのは一方で真実ですが、数字で表す努力をするからこそどでかく開ける世界もあるのです。インナーコーリング社のcocokuriが挑戦しているのは、まさにこの部分です。
そしてそのためのキーワードにしているのが、「マインドフルネス」と「集中力」です。
「マインドフルネス」による「集中力」の可視化
Googleやインテル、ゴールドマン・サックス、マッキンゼーなど、世界的な名だたる企業が導入して注目を浴びるマインドフルネスですが、この市場はアメリカでは1000億円もの規模と言われています。
一方、日本ではまだ1億円にも満たないものの、2016年にNHKの番組で取り上げられたことを機に一気に広まりました。
マインドフルネスが注目を浴びた背景には、スマホやSNSに象徴される外部との常時接続社会があります。
米マイクロソフトのカナダの研究チームが2015年5月に発表した研究によると、人間の集中力持続時間は徐々に落ちているそうです。2000年には12秒だったものが、2013年には8秒になったとのこと。ちなみに金魚の集中時間は9秒なので、人間は金魚以下となりました。
そんな中で仏教で行われていた瞑想が、集中力アップやクリエイティブな発想に効く。こうした点が評判となり、宗教色を外したマインドフルネスは一気に花開きます。
言うなれば精進料理の精神を活用しながら作られた、マクロビオティックと同じ流れですね。
しかしアメリカでも起きたことですが、急拡大に伴って(ポンポン出てくるので)ポップコーン老師と揶揄される怪しげな先生が、これからたくさん出てくることも予想されます。
マインドフルネスを単なる効果不詳の自己啓発セミナーにしないためにはどうしたら良いか。この時にインナーコーリング社が考えたのは、
○お坊さんを講師とすることによる信頼性の担保
○集中力を数字で表すメガネ『JINS MEME(ジンズミーム)』の導入
の2点でした。
集中力を測定するって何それ? 怖いっていう方は、以下の記事をご覧下さい。
集中力測定メガネJINS MEME(ジンズミーム)と僧侶がコラボ
実際にこうした集中力に数値計測が伴ったことで、JINSさんと一緒に行われたプレス発表会には27社54名が取材に訪れ、合計94メディアに掲載されました。
Web業界で働くためのオンライン動画学習サービス『Schoo(スクー)』でも、『受けたい授業ランキング』で1位になったり。
Schooの受けたい授業ランキングで、マインドフルネス講座が1位!
ということで、、、
これからの人口減少、特に労働世代の激減により、生産性向上は各企業にとって死活問題となっていきます。
また過労うつ抑止や子育て支援、ライフワークバランスなど、残業の削減も社会的に目指す理念になってきました。
そして檀家数減少や葬儀法要の簡略化によるお坊さんの収入低下は、このブログを読んでいる方にはもはや語ることでもないかもしれません。
マインドフルネスと仏教は非常に近い親戚関係とも言えますし、一方で全く異なるものとも言えます(宗派によっても見解はバラバラですし)。このためお坊さんであれば、誰でもすぐにマインドフルネスの講師になれるというものでもありません。
ですが企業にとって「お坊さん」は、「ヨガ講師」「トレーナー」「瞑想コーチ」などより信頼性があると判断されています。このためcocokuriでは、マインドフルネスを身につけた僧侶をコーチとして養成するプログラムも作成しています。
さらに言えば、それを作ったのもお坊さんです。ぶっちゃけ寺の僧侶側仕掛け人として知られ、回答者が全員お坊さんの人生相談サイトhasunohaの共同代表でもある井上広法さん。
この井上さんを始め、現在は7人の僧侶が認定コーチ(2名はマスターコーチ)になっています。
所属されている宗派も様々なので、ここからどこまで統一してどの部分でカラーを出せるかによって、これからやってみたいと手を挙げるお坊さんの数も変わってきそうですね。マインドフルネスから仏教への還流も必要だと思いますし。
企業セミナーは矢野経済研究所の調査によると、4970億円(2015年度)もの巨大市場です。さらにこの数字は前年度比2.3%増であり、企業が研修にかける意欲も増しています。
企業セミナーにお坊さんの活躍するフィールドを生み出すことができるか。これまた前人未踏の挑戦なので、すぐにどんどん広がっていくというものではありません。
ですがほーりーはその可能性に賭けていますし、力も尽くしていく予定です。