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宿坊や仏前結婚式は、お葬式を補完するシステムだ!

檀家さんが激減し、葬儀法要も簡略化している。そんな中でお寺に宿坊を開けば、新たな収入が期待できます。私は宿坊がこれから潰れるお寺や神社を支える一助になると考えていますが、それに対してこんなことを述べられるお坊さんがいます。

「お寺の本分を忘れて宿坊を始めても、うまくいくはずがない」

ときには感情的に「宿坊なんか始めるくらいなら、お寺は潰れた方がいい」という言葉も聞きました。

うん、どんだけ嫌われているんだ。宿坊。

ここで言う「お寺の本分」とは、お葬式(やそこから始まる各種法要)のことでしょう。要するにお葬式以外に経済的な糧を求めるお寺は邪道だということです。

ですがこれって、現在のお葬式問題に対して、特にお寺の外からの目があまりに欠落した意見です。私の考えではお寺が宿坊を始めることは、お葬式の心を伝えることにもつながります。

葬儀法要以外に道を見出すのは、仏教からの撤退なのか?

宿坊なんてダメだ、ダメだという方は、「宿坊がお葬式に代わってお寺を(経済的に)支えることはできない。だからダメだ」と言いたいようです。もちろんそれ以外にも、「俺たちはこれまで檀家さんからのお布施で成り立ってきた。それが誇りであり、葬儀法要を手放すなんて認められない」という想いも強く感じられます。

しかし日本の家電メーカーも、自分たちの技術にプライドを持ち、一時は世界を席巻した商品にこだわり続けるばかりに、苦境に陥った会社が多数あります。お寺も似たような構造を抱えているわけです。

そうした意味ではフィルムがほとんど使われなくなった時代に、持っていた技術を医療や化粧品に転用していった富士フイルム(ちなみに、「フィルム」ではなく「フイルム」と「イ」が大きいのが正しい表記)は偉大な会社ですね。

富士フイルムのサイトを見ると、一番目立つバナーに書いてあるのが、「つるんぷるん」です。

富士フイルム

そして会社のヒストリーには、こんなことが書いてありました。

急速なデジタル化の伸展により、年率20〜30%という恐るべき勢いでフィルム市場が縮小。富士フイルムはこの未曾有の危機を、さらなる成長ヘの大きなチャンスとして活かしました。

それまで培ってきた技術を棚卸しし、強みを活かした事業の多角化を推進。ファインケミストリーからエレクトロニクスまで社内に保有する幅広い技術と市場の融合により、新たなビジネスの創出を成し遂げたのです。

たぶん、富士フイルムの経営者も社員もデジカメが普及し始めた頃は、もっと良いフィルムを作れば挽回できるのではないか。フィルム以外で勝負するのは負けを認めることではないかと、激しく苦悩された方もいたと思います。

ですがそこで大きく舵を切ったことが、今のさらなる発展につながっています。同じくフィルムを世界中に送り続けた世界的企業・コダック社が破たんしたことを考えれば、こんなにもフィルムが使われなくなった未来を見通せた人は多くないはずです。

富士フイルムの本質は会社名にもなっている「フィルム事業」ではなく、もっと根源的な社員の技術にあったということでしょう。企業と宗教では同列に語ることはできませんが、共通項は多くあります。

宿坊がお葬式にとって替わる? ありえないでしょう。

しかしもちろん、富士フィルムの例をもってして、これからお葬式がなくなる。宿坊はそれにとって替わるなんて言うつもりはありません。

そもそも現実的な観点として、日本にある約77000軒のお寺が宿坊を始めるなんて不可能です。

厚生労働省の発表によれば、日本のホテルや旅館、簡易宿所などは現時点で合わせて8万軒近くあります。いくら海外からたくさんの人が訪れてきている、ホテル不足、民泊大流行と言ったって、すべてのお寺(さらには神社も)が宿坊を作ったらめちゃくちゃ供給多寡です。

私の手元には日蓮宗さんから頂いた宗勢調査報告書がありますが、これを見ると主な収入源を檀家布施収入と答えたお寺は、全体の8割以上でした。他の宗派も似たようなものでしょうし、どう考えても宿坊はお葬式とは規模が違います。

ですが私はそれで良いと思っています。

通常、問題は大きければ大きいほど、ひとつの解決策だけで魔法のように解決なんてことはあり得ません。

たとえば少子化問題だって、保育園を増やせば解決できるわけではないでしょう。ですが育児休暇を取りやすくしたり、出産年齢を早める啓蒙活動を行ったり、世帯ごとの所得を上げたり、不妊治療の医療技術を高めたり。ひとつひとつ生みやすい、育てやすい環境をそれぞれの専門家が地道に作り上げようとしています。しかしそれだけの専門家が集まったって、解決は遠い道のりです。

なので私は宿坊を広めることに、人生を費やす。私の人生一個分ごときで寺社全体の衰退を食い止めるなんて不可能なわけですから、宿坊がほんのちょっとその足しになる。そして私とは別の視点、別の解決策を持った人間がまた同じように少しずつ積み上げていく。

その結果、私の大好きなお寺や神社が、何もせずに放っておくよりは次世代に多く残れば、それでいいかなと考えています。

宿坊や仏前結婚式は、お葬式を補完するシステムだ!

宿坊とは何か?

なので私が強く意識しているのは、お寺社会の収入ポイントを葬儀法要以外に多様化させることです。これは別に葬儀法要がダメと言っているわけではなく(むしろ、それはめちゃくちゃ大切)、葬儀法要だけなのがダメと思っています。

現在のお葬式問題をお坊さん視点で挙げるとすれば、

・お葬式の簡略化や直葬が増えている
・お布施の意義が伝わらず、企業による料金明示化がまかり通っている
・派遣僧侶などの広まりにより、お葬式単価が外部要因で下げられている

などがあります。

しかし、私たち一般の目線から見たら、

・多額のお金がかかるお葬式を挙げる余裕はない
・お布施なんてお坊さんの都合で押し付けられた、不明瞭なシステム
・よく分からないお経を聞いても、ありがたみはない

です。この両者の溝を埋めるのが宿坊です。

お寺が宿坊でお金を稼ぎ、寺院収入の安定が図れれば、お葬式への依存度を下げられます。宿泊施設を葬儀に横展開できますし、それは安さだけでシェアを伸ばす企業へのカウンターにもなります。また護寺会費を下げたり、檀家さんへの負担軽減も考えられます。

そしてさらに本質的なのは、私たちがお葬式に価値を感じない問題です。これはいくらお葬式だけ改革しても限界があります。

身内がなくなってから始めてお坊さんに近づかれても、大抵の人はお葬式の価値など考える余裕はありません(それどころか、不信感が芽生えても不思議ではないです)。それ以前の人生フィールドに頻繁に出入りして、初めて私たちはお坊さんが唱えるお経を噛みしめます。

これまでの時代、お布施がしっかり根付いていたのは、お坊さんと人々の距離が近かったからです。なので人の暮らしが変わっても伝える心は変えたくないなら、今の暮らしにあったコミュニケーションが必要です。

宿坊を作るお寺はもちろん、作らないお寺さえも、宿坊を世の中に広めることは、お葬式の価値が向上していく手段になると考えたっていいでしょう。私は宿坊を、そうした方向にも持っていきたいと考えています(ちなみにこれは、仏前結婚式にも当てはまります)。

人の死は受動的な出来事ですが、旅行や結婚は能動的です。お寺の外にいる人の能動的な動機にフォーカスを当てることで、お葬式の受け取られ方も変わっていきます。

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