コスパに優れた耐震設備、仕口ダンパーの取り付け工事を見てきたよ
先日、東京都杉並区にある智光院が本堂の耐震工事を行うとお聞きし、これはめったに見られない機会と思って見学に行ってきました。
智光院の本堂は、昭和34年(1959)に福蔵院というお寺の本堂を移築したものです。ご住職の話ではもともとは江戸時代の建物であり、床がぶかぶかで不安定な部分があったりと地震に対して不安を感じていたとのことでした。
そこで本堂の床下に『仕口ダンパー』という補強部材を取り付け、耐震性能を高めることが決定します。ちなみにほーりーのような建築素人になじみやすい「耐震」という言葉を使いましたが、正確には地震に対する耐性には3つの言葉があるそうです。
○耐震・・・建物全体を固めることで地震に強くする
○制震・・・揺れを吸収する装置を組み込み、地震エネルギーを受け流す
○免震・・・地面と建物の間にエネルギー伝達を切り離す装置を入れる
建築は素人ですが、大学時代に機械工学を学んだほーりーとしては、なんとなく分かる(気がする)話です。構造物の大きさは異なりますが、エンジンの振動をどう制御するかなんて技術とは相通じるものがあるので。
そこでそれぞれのメリット・デメリットをまとめてみましたが、こんな形です。まあ、一概に全てがこうとは言えませんが、ひとつのイメージとして簡略化してみました。
これでもよくわからーんという方は、ドラクエを思い描いて下さい。
「耐震」は鎧や盾を装備すること、「制震」は武道家のように攻撃を受け流すこと、「免震」はスクルトのような魔法で相手の攻撃自体を小さくすることです。
余計混乱させただけだったら、ごめんね。とりあえず今回は「制震」に属する話ですよ。
智光院はなぜ、仕口ダンパーを導入したのか?
今回の本堂工事になぜ、『仕口ダンパー』が使われることになったのか。まず大きな決定理由として、低コストだったことが挙げられます。
智光院の本堂は、本体部分が約45坪です。こちらに床下の地覆と仕口ダンパーの取り付けで、500万円くらいになりました。
(その他に別途天井の張り替えも行ったため、こちらにも500万円ほどかかっていますが、ここでは割愛)
もちろんこれだって小さな額ではありませんが、他のお寺などでは工事に数千万円かかることもあります。場合によっては曳家(ひきや)さんに建物を持ち上げてもらう必要が出るなど、事前準備だけで多額の費用が掛かったりしますし。
一方で地震に対する強度問題もあります。筋交いを入れるなどの「耐震」補強は中程度の地震までは対応できますが、大地震には対応できません。
一般住宅であれば一番簡単な筋交い(柱と柱の間に斜めに入れて建築物を補強する部材)を入れ、中の人が脱出するまで建物が持ってくれればそれで構いませんが、お寺の本堂となるとそれでは不安です。
内部空間も住宅より広く、筋交いを入れることは見た目や機能性にも影響するため、足元を固めて制震化を図る必要があります。
ついでに言えば、「うちの本堂は関東大震災の時も大丈夫だったからね~」なんて言われることもあるそうですが、この地震は神奈川西部から相模湾辺りが震央で、東京で大きな被害が出たのは火災が中心です。
なので大地震が起きた時、果たして本堂は大丈夫だろうか。そこで費用対効果を熟慮して選ばれたのが、今回の仕口ダンパーだったわけです。
仕口ダンパーの工事見学
と、ここまで引っ張ってきましたが、そもそも『仕口ダンパー』とは何か? まずは、写真で登場です。じゃじゃ~ん。
このダンパーは三角形の鋼板(ステンレス鋼)を2枚合わせ、その間にジェン系粘弾性体を接着したもので、地震の時にはこの2枚の板がずれるように揺れながら、真ん中の粘弾性体がエネルギーを吸収していきます。
これが智光院の場合、床下に36枚取り付けられました。
ちなみに地覆(仕口ダンパーを取り付けた、横木の部材)の設置には2週間くらいかかっていますが、仕口ダンパーの取り付けは1日で終了しています。
ただしこの工期の短さは智光院の床下が広くて、ほーりーも中に潜って探検できるくらいに作業しやすい好条件ということもありますが。
ちなみにすぐ近くの常仙寺さんでも、この仕口ダンパーが取り付けられていました。せっかくなのでこちらも見学させて頂いた時の、ベストショットがこちら。
智光院では撮れなかったのですが、二軒目ともなると遊び心が生まれてきますね。でも、こうした作業を毎日続ける職人さんたちの苦労がしのばれますよ(夏は本当に大変らしいです)。
ということで、、、
頂いたパンフレットから、改めて『仕口ダンパー』の特徴をまとめると
ということです。
ほーりーはこの分野の専門家ではないため、仕口ダンパー以外にどのような技術が世の中にあるのか分からず、けっしてこれが最高だよと言うつもりは(というか、言える知識は)ありません。
ただ、以前に灯篭の免振工事を行っている会社の見学にも行ったことがありますが、やはり人が集まるお寺だからこそ、いざという時の備えも大切だなと感じます。
さらについでに言えば、お寺ってこうした工事もしているよということを、もっと広く世の中に(檀家さん以外にも)伝えたらいいとも思います。坊主丸儲けなんて言われる世の中で、お寺の維持がどれだけ大変かということも、伝わりやすくなりますしね。
本堂の床下をお参りするツアーとかあったら、人気も出ると思うけど。
まあ、それはともかくとして。
今回はこの仕口ダンパーを取り扱われている株式会社アンデン東京の遠藤守さんと、株式会社社寺建築社の外川譲児さんのご協力のもと、智光院・常仙寺の事例を取材させて頂きました。
アンデン東京はこの仕口ダンパーの取扱代理店、社寺建築社は世田谷区に本拠を構える宮大工集団の建築士事務所です。今回は2日に渡り、めちゃくちゃ丁寧に教えてくださいましたよ。
もしもご興味ある方がいましたら、それぞれのウェブサイトもご覧くださいませ。