最高到達地点を作った向源から、お寺社会が学ぶこと
先日、『世界最大の仏教フェス・向源』に出かけて来ました。浄土宗の大本山・増上寺で行われ、仏教や日本文化にふれるワークショップを50以上も用意。本当に世界最大かどうかは私には分かりませんが、少なくともお寺に行きまくっている私でも最大を実感するエキサイティングなイベントでした。
そしてこのイベントの何よりの特徴は、全てお坊さんやその関係者だけで企画・運営されていることです。当日は事前に募られたボランティアスタッフだけで200人超、来場者は2000人に登りました。しかしここにはマーケティングやイベント企画会社などは一切入っていません。このことは何よりも特筆すべきことだと私は考えています。
2014.4.29 増上寺で行われた向源の写真です。かなり暗い部屋なので画質は全天球カメラの限界が来ていますが、盛り上がりっぷりは伝わるのではないでしょうか。【photo 宿坊研究会】 – Spherical Image – RICOH THETA
↑上の360度写真はRICOH THETA(リコー シータ)で撮影しました。マウスで動かせますよ。
話は変わりますが、私は個人や社会が成長する時の大切にしている指標の一つに、最高到達地点があります。これは最も大きな数字やすごかった経験、または今まで全くなかったものが作られた時のことを指しますが、以前ここまでやることができたと自分で思える(そして他の方に伝えられる)到達地点は、将来に向けて大きな飛躍の要素になります。
例えば私で言えば、200人のお坊さんの前でお寺活性について講演したことは一つの到達地点です。また、明石家さんまさんとテレビで縁結びの話をしたのもそうでしょう。フランスのテレビ局から取材を受けたのも、そのひとつかもしれません。
翻って向源ですが、これは個人だけでなく、お坊さん世界全体にインパクトを与える最高到達地点になったと感じています。どこかの会社に丸投げするのではなく、仏教や日本の良いものを伝えたいという想いを束ねて、お坊さん達が汗をかきながら作り上げました。
向源の会場となった増上寺境内を歩きながら、私は知り合いのお坊さんにもいろいろお会いしました。その中にはこのイベントは勉強になるからと、仲間のお坊さんを引き連れて見学されていた方がいました。また当日知り合ったとある女性は、話を聞くとお寺の娘さんでした。開催直前に向源のことを知ったため、増上寺に着くのが夜になるにも関わらず、一目だけでも会場を見ておきたいと世界遺産・白川郷から駆けつけてきたそうです。
オリンピック陸上100メートル走では長い間誰も10秒を切ることができず、カール・ルイスが初めて9秒台を出した(手動計測では過去にジム・ハインズが10秒を破っていますが)ところ、多くの選手が10秒を切るようになったという有名な『10秒の壁』があります。
この周りが壁を超えるための勇気を与える存在になったと、今回の向源を歩いて感じたのです。
向源の代表であり最初に企画した友光雅臣さんはまだ30歳と、お坊さん世界ではまだ一番下の世代です。しかも向源自体ももともと友光さんが所属する常行寺という町中の小さなお寺(といったら、失礼でしょうか)で行われた声明イベントから始まっています。
初年度(2011年)は訪れた人間が70名ほどの、ごくごく小規模なものでした。それが2年目で150名、3年目で300名の来場。4年目となった今年は一気に2000人が訪れる大規模イベントへと成長していきました。
代表の友光さんは東京オリンピックに向け、今回の到達地点をさらに登山口に変えて、日本を世界に伝える仏教フェスへと発展させていきたいとおっしゃっています。以前にその計画書を拝見させて頂きましたが、今後は各宗派の本山レベルのお寺で複数会場同時開催も目指しているそうです。これは他のお坊さんにも計り知れない影響をもたらしていくのではないでしょうか。
イベント制作会社に任せなくてもここまでできる。私は友光さんには向源をさらに発展させることはもちろん、この経験を多くのお坊さんと共有してほしい(できれば本を書いてほしい。今なら電子書籍などでもすぐにできますし)と考えています。それはお寺世界全体の財産になります。
私も向源には毎年足を運んでいますが、一年一年ステップアップしていくこのイベントに次はどうなるか? 次はどうなるか? と、ワクワクしています。
先頭を歩く友光さんも、それを助けるお坊さんや仲間たちも、来年はさらに強烈なプレッシャーとの戦いです。ですがお寺社会全体がこのイベントには注目し、支えていってよいのではと考えています。もちろん宿坊研究会でも応援しています。