日本三大絵巻の一つ、国宝『信貴山縁起絵巻』の模写プロジェクト
日本は長大な歴史の中で、多くの文化財が残されている国です。しかし経年劣化や紛失により失われたものも少なくなく、貴重な品々をどのように未来に伝えていくかが課題になってもいます。
先日、仏像の盗難がこれから増えるかもしれないという予測を書かせて頂きました。また、以前に法隆寺の金堂壁画や世界各国の遺産を復元した、クローン文化財展も記事にしています。
文化財は「保存と公開」をどのように両立させていくかが問題視されています。保存だけを優先するなら誰の目にもつかない場所にひっそり保管しておけば、それがベストなのは間違いありません。
しかし公開は価値を伝えるためにも必要です。保管や修復には多額のコストがかかりますが、価値が分からなければ誰もお金や労力をかけたいとは思わないでしょう。その場合、放置されたまま朽ちていったり、ごそっと廃棄されてしまうことにもつながりかねません。
そんな流れの一つになりますが、奈良県の信貴山朝護孫子寺に伝わる『信貴山縁起絵巻(国宝)』を現状模写するプロジェクトが立ち上がっているのでお知らせします。
信貴山縁起絵巻とは
『信貴山縁起絵巻』は源氏物語絵巻・伴大納言絵巻と並ぶ、日本三大絵巻の一つです。こちらは約1100年前に信貴山を中興した命蓮上人(みょうれんしょうにん)の霊験譚などが描かれています。
その中でももっとも有名なエピソードの一つに、長者の家から鉢を飛ばして蔵ごと持ち帰った話があります。命蓮上人は特別な法力で鉢を飛ばして人家を回り、托鉢として食事やお金のお布施を受けていました。しかし貪欲な長者がそれを拒んだため、建っていた米蔵ごと鉢に乗せて運んでしまったという話です。
絵巻には空に浮かび上がる蔵と慌てふためく人々が、大胆な構図で描かれています。「国宝の絵巻」と言うと堅苦しいものを想像しますが、現代の人が見てもユーモラスで楽しめる物語になっています。
信貴山にはこの命蓮上人に教えを授けた竜王が、『空鉢護法の神』として祀られています。
また、もう一つの見どころとして、命蓮上人が醍醐天皇の病気加持のために釼鎧童子(けんがいどうじ)を遣わした場面もあります。こちらは当時の表現技法としてもエポックメイキングで、美術ファンにも注目されています。
絵巻は通常、右から左へと時間が経過し、物語が進んでいきます。信貴山縁起絵巻自体も基本はその流れに沿っていますが、この童子だけは左から右へと逆進しています。
しかも長く尾を引く雲に乗り、醍醐天皇の元へと一瞬で駆けつけるような躍動感です。時間の流れをさかのぼって進むことも、仏様の世界から現れた様子が示されているかのようです。
信貴山縁起絵巻はこのような目を引く表現があちこちに施され、日本に残る絵巻物の中でもトップクラスの人気を誇っています。
信貴山縁起絵巻の現状模写プロジェクト
そしてこの信貴山縁起絵巻ですが、劣化が進み、放っておけばいずれは絵の内容が判別つかなくなってしまう可能性があります。
そこで現在の形で残そうと、全国寺社観光協会・東京藝術大学・信貴山朝護孫子寺の三者で、絵巻を細密に模写するプロジェクトが始まりました。
今回の現状模写は絵巻を徹底的に調査・分析し、製作された平安時代と同じ絵具を用いて、剥落、褪色、変色、欠損、しわや汚れ、虫食い跡に至るまで人間の目と手を使って正確に写し取られています。
2017年度より11年に渡る長期プロジェクトとしてスタートし、平安時代と同じ高価な天然絵具を用いるなど、その費用は多額に上ります。そのため資金的にも負担が重く、クラウドファンディングによる支援者(3000円~)を募集されています。
ということで、、、
クラウドファンディングは以下のページに、詳細案内が載っています。
超絶技巧!藝大現状模写で国宝『信貴山縁起絵巻』を千年の未来へ
それによると、作業には以下の行程があるとのことです。
1:原寸大写真の上に、絵の具のにじみ止めを施した薄美濃紙(和紙)をセット
2:上に敷いた紙をめくりながら模写
3:表情などを細かく写し取った後、全体の色彩や濃さを整える
4:全体の線を写し取った後、パネルに張り込める
5:奈良国立博物館で検証を行うための色見本を作成
6:原本と色見本を照らし合わせ、塗っていく色を決める
7:重厚感や絵の具の質、色味の印象などを大切にしながら、彩色する
8:色彩が完成した後に、原本と同様にマットで表装し、桐箱に収める
細かく細かく、一つ一つを描きとっていく壮大なプロジェクト。よろしければぜひご覧になってみて、よろしければ応援してくださいませ。