コロナ不況の長期化で予想される仏像盗難には注意が必要
先月末に緊急事態宣言の再延長が発表されました。そしてこれを引き金とした経済打撃の予測もあちこちで発表されています。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストの試算によると、去年から3回出された緊急事態宣言の損失額合計は、約16兆円となるようです。東日本大震災の被害総額は約16兆9000億円と推計されているので、緊急事態宣言の経済ダメージは震災と同程度と考えられます(ただしそれをはるかに上回る規模と予測しているところもあります)。
また、内閣府が発表した2020年度の実質GDP成長率は、前年度比マイナス4.6%となっていました。これはリーマンショックの影響を受けた2008年度を超える下げ幅で、日本経済が激烈に後退したことを意味しています。
それをグラフにすると、こんな感じです。
しかし今のところ、企業倒産は危惧されたほど広がってはいません。株式会社東京商工リサーチの調査によると2020年の全国企業倒産は7773件と、過去50年間で4番目の少なさとなっていました。
総務省が発表している労働力調査で2020年の完全失業者数は191万人(前年比29万人増)、完全失業率は2.8%(前年比0.4ポイント上昇)と悪化していますが、未曽有の危機の中で雇用は保たれているほうです。
経済はズタボロなのに、なぜ目に見えて深刻な事態に陥っていないのか。これは大ざっぱに言えば税金で補填されているためです。それも現在までに積み立てられたものだけではなく、未来からも先取りしています。
JIJI.COMの報道によると政府の2020年度の一般会計歳出は総額175兆円超と、過去に例のない規模に膨らんでいます。そして歳入に占める国債依存度はリーマン・ショック後の2009年度決算(51.5%)を上回る64.1%に上昇しました。
現在はコロナによって打撃を受けた企業への支援策も用意されています。しかしこれが永久に続くことはなく、どこかで打ち切られたり、融資を回収するフェーズに入っていくでしょう。
東日本大震災の復興特別所得税は、2037年までの徴収が予定されています。震災増税すらまだ終わっていませんが、コロナで要した財政出動はいずれそれ以上の形で回収されることは間違いありません。
その時、倒産や失業ラッシュが起こるでしょうし、経済的に立ち行かなくなる人も爆発的に増えていきます。人口減少期には政府予算の余裕もなくなり、これまで贅沢はせずとも貧困とは無縁と思っていた人達でさえ、明日の食事に困る社会に突入していくわけです。
なんというか、あまりの数字にめまいがしてきますね。老後とか、超怖い。
緊急事態宣言の連発で、治安は悪化する
少し前に、経済の落ち込みが治安にどのような影響を与えるかをまとめた記事を書きました。
グラフを再掲すると、失業率が上がるにつれて、犯罪発生率も高まることが読み取れます(完全失業率は総務省統計局より、犯罪発生率は犯罪白書から引用して人口比で計算)。
経済が落ち込めば強盗や窃盗数が増えることは、大阪大学の大竹文雄教授・小原美紀教授の研究や 龍谷大学の津島昌弘教授の研究などでも指摘されています。
これは失業者がそのまま犯罪者となることは意味しません。収入が断たれて犯罪に手を染めてしまう方もいるでしょうが、逆に切羽詰まることで詐欺に付け込まれたり、社会が不安定化して暴力沙汰になることもあるでしょう。失業率はあくまで経済の落ち込みを測る指標です。
また不況とは別に緊急事態宣言が連発されることによる治安悪化も懸念されます。
3回目の緊急事態宣言では、飲食店に酒類の提供禁止が要請されました。こうした動きは現代の禁酒法と揶揄されていますが、その本家本元・アメリカの禁酒法は、1920年から1933年まで続いたアルコール飲料の製造・販売・輸送を禁止した法律です。
しかしこちらは数々の抜け道が作られ、まっとうなウイスキー産業は壊滅的な打撃を受けた半面、犯罪組織には大きな利益をもたらしました。
期間の限られた緊急事態宣言で同じ結果が生まれるとは思いませんが、ルールを守るものから息の根が止められる事態は起こり始めています。そしてインターネット上での意見を見ても、休業要請に応じない飲食店に理解を示す言葉は、昨年と比べても目立ってきました。徹底した自粛を要請していた政治家や医師が会合などを繰り返していることにも、大きな不信が募っています。
明確なエビデンスを示すこともなく、人心にそぐわぬ制限を続けざまに繰り返すことは、これまで高いと言われていた日本人の順法意識を失わせることにつながります。それはこれから年月をかけて、モラル崩壊を引き起こしていくでしょう。
仏像盗難の更なる深刻化を防ぐために
こうした事象を受けてほーりーがお寺社会で危惧していることは、仏像盗難のさらなる深刻化です。
下のリンクは以前に和歌山県立博物館の『和歌山の文化財を守る』展を取材した時の記事ですが、仏像は全国あちこちで盗難が相次いでいます。
和歌山県では2010~2011年にかけて(被害届が出たものだけで)仏像172体以上が盗まれるという、とんでもない惨状がありました。
また上記リンクで詳しく述べていますが、お寺は一般住宅の10倍以上も盗難被害に遭いやすく、また仏像は他の美術品と比べて圧倒的に盗まれやすい状況があります。
これから日本の治安が悪化していくと、お寺で仏像が盗まれる事件はさらに増えていくでしょう。これに対してできる対策は以下にまとめています。
内容を要約すると、以下の通りです。
○仏像の写真を撮影する(寸法や銘文なども記録しておく)
○下草を刈ったり、ゴミを片づけるなど、お堂に人の手が入っていることを明示しておく
○センサーライトや警報機、施錠の二重化など、防犯対策を行う
○もし管理が難しければ、博物館などへの委託も考える
○3Dプリンターや監視カメラ、GPSトラッカーなどの技術発展にも目を向ける
ということで、、、
仏像盗難への備えは、盗まれてからでは手遅れです。実際に窃盗犯から取り戻した仏像が、元のお寺に写真などで記録として残っていないため、返却できなくなっているケースもあります。
盗難被害から戻ったけど、持ち主が分からなくて返せない仏像一覧
コロナによる不況がこれから本格化することは、最初に述べていきました。これは逆に考えれば、まだ対策を取る時間が残されているということでもあります。
無人のお堂や普段は目につきにくいお寺の死角など、大切な仏像を守るためにも今一度目を配って頂けたらとほーりーは願っています。