宿泊価格が不当に低いと、宿坊自体が消えていく
このところ宿坊開設についてお坊さんと話していると、必ずと言って良いほど宿泊料はいくらが適切かという話題が出てきます。
特に現在はお寺と民泊を組み合わせた『テラハク』が登場したため、
○民泊は安宿のイメージがある
○お寺での宿泊はさらに安価(というか、無償?)のイメージがある
○合わせ技で宿坊は、めちゃくちゃ安くしか料金設定できないのでは
と、思われる方が多いようです。
テラハクが大々リリース。宿坊開設の敷居がとんでもなく下がります
ほーりーはもちろん、安価な宿坊を否定するつもりはありません。実際に20年前に始めて宿坊に泊まった時、朝食付4500円という価格に惹かれた面もありました。
まあ、お金のない大学生だった頃ですしね。
しかしそこで宿坊にはまったのは、「これ、一流旅館よりすごいだろ!」と、衝撃を受けたことです。宿泊料3万円と言われてもおかしくない場所に、諭吉さんが半分以上返ってくるのですから当然と言えば当然です。
当時は単純に安くて嬉しいと考えていました。今でもその気持ちは残っていますが、お寺社会との関わりが増えるにつれ、これは無邪気に喜んでばかりもいられないと思うようになっています。
簡単に言えば本来の価値を度外視した安売りは、お寺にとってはもちろんのこと、私のような宿坊好きにも害が大きいのです。
宿坊=安宿イメージの弊害
ほーりーは今でこそ、お坊さんの研修会で講師をさせて頂いたり、お寺と契約して企画を作ることなどもありますが、基本的にすべての活動はお参りする側、泊まる側のスタンスに立つことを心掛けています。
ですがこのような視点で見ても、宿泊料が安すぎることは良いことばかりではないと感じています。
ちょうど、業界は異なりますがYahooに似たような話が掲載されていました。
立派なとんかつ定食を格安で販売して人気のお店。実は年金が補助金代わりになっているだけなので、次世代が事業を引き継げずにつぶれていくという問題提起。
この採算度外視の低価格で継続できなくなっている事情は、宿坊やお寺社会でもわりと聞く話です。https://t.co/oQN2UwlACY
— ほーりー(寺社旅研究家) (@holy_traveler) 2018年8月27日
内容を簡単にまとめると
○1000~1500円はするはずのとんかつ定食が、600円から800円で売られている
○そうしたお店は人気が高いが、次々廃業している
○実は年金を補助金代わりに夫婦で切り盛りしているだけで、後継者が事業継続できないため
と、いうものです。
そして、以下のコメントも紹介されていました。
趣味で続けているような高齢者が、ありえないような価格で受注したりする。そうした価格を当たり前のように持ってきて、やってくれという発注者側もどうかしているが、市場価格を乱すような高齢者は早く廃業してほしい
以前に私も講演料を赤字にするスター僧侶がお寺の首を真綿で絞めるという記事を書きました。
こちらもすごく有名なお坊さんが、講演料はほとんど取らずにいる話を聞き、他の人がもっと安値でしか仕事を受けられなくなる(そして仏教全体のパイが減る)からやめた方がよいのではという指摘です。
50万円で講演を受けるお坊さんが1人いれば、10万円で講演を受けられるお坊さんが100人誕生します。その高価格帯を作ることは、スター僧侶にしかできない大きな仏教布教です。
講演料において自分のギリギリに踏み込む姿勢は、個人主義的でありながらも大きな社会貢献なわけですよ。
宿泊価格が不当に低いと、宿坊自体が消えていく
宿坊はこれまで、ブームブームと言われながらもその数を減らしていました。その理由は閉鎖する宿坊が続く一方で、新規開設がほとんどなかったためです。
しかしこの流れが変わったのが、2017年でした。この年に生まれた宿坊の特徴は、2万円を超えるような価格が多いことです。
そしてこのトレンドは2018年も継続しています。テラハクから生まれた和空三井寺は、一泊10万円(ただし、一人にかかる料金ではなく、一棟丸貸しスタイル)からスタートしました。
テラハクから和空三井寺が誕生。宿泊価格は一棟貸し10万円から
また、仁和寺に生まれた宿坊は1泊100万円(税別)と、大きなニュースになっています。
マジか! 京都・仁和寺に1泊100万円の宿坊誕生。宿坊がまた一つ、新しいステージに入りそうです。https://t.co/YXTtVFzJFU
— ほーりー(寺社旅研究家) (@holy_traveler) 2018年6月22日
仁和寺の宿坊はちょっと極端な例としても、ある程度はビジネスとして旨味がなければ誰も参入しません。そして仏教にお金を近づけるなという圧力が強すぎると、お寺や宿坊自体が消えていきます。
宿泊料が安すぎるためにお寺がコストをかけられず、傷んだところを直せなくなったり、スタッフを雇えなくなり、廃業してしまった宿坊も出ていました。
先日開催した、宿坊スタートアップミーティングでも、「安宿だと採算が合わず、とてもリスクを取って宿坊をやろうとは思えない」なんて意見も挙がっていましたし。
そりゃー、そうだろうとほーりーも思うわけですね。
ということで、、、
宿坊の高価格化が進むことに対して、嫌悪感を示す方もいるでしょう。私も料金が高くなるのはお財布的にダメージですが、それでも長い目で見て大好きな宿坊やお寺・神社が消えていくのはもっと嫌だという想いがあります。
さらに言えば、料金が上がって宿坊自体のプレミアム感が増せば、低価格の宿坊ももっとたくさん誕生するとほーりーは予測しています。
それこそゲストハウスのように、ぎっしりとベッドが並んだ宿坊とかですね。「起きて半畳寝て一畳」なんて言葉もありますし、ドミトリー(相部屋形式)だって宿坊とは相性ばっちりです。
なので10年後、20年後には今よりはるかに宿坊文化は多様になり、仏教・神道にふれる機会も増えるでしょう。しかし一泊5000円の宿坊が採算も取らずに続いていると、新しい芽も摘んでしまうわけです。
先日、月刊住職の私の連載で、値上げや値付けの大切さについて言及させて頂きました。そこで訴えたことは、値段を変える時はこれまでとは異なる相手を巻き込むことです。
宿坊について言えば、それは海外からの訪日旅行者です。こうした方が「宿坊とは1泊5000円程度の宿なんだ」という認識を持つ前に価格アップを図れるかどうかは、私は寺社界のみならず日本全体を左右する問題だと考えています。