旅館開業資金の8割をカットできる宿坊は、反則的にメリットだらけ
先日、『はじめての「お宿」オープンBOOK』という本を読みました。新宿の紀伊国屋で探した中では旅館業開業について一番分かりやすかった本(本書は宿坊開設について相談のあった寺社さんにも紹介しています)ですが、この本を読んでいたらやはりお寺にとって宿坊を始めることは、とんでもない切り札だと思えてきました。
はじめての「お宿」オープンBOOK バウンド 著 |
この本の冒頭では、こんなことが述べられています。
宿を作る際は、どこにお金をかけるか? 何を特徴とするのか? を考えるべきです。 |
お金と特徴、この2点において宿坊は他の旅館やペンションよりも圧倒的に有利です。
まず、第一のお金。一般の人が旅館業(家族経営的な、小さなペンションなど)を始めるにあたり、大きな課題となるのが開業資金です。
本書では事例が豊富に紹介されていましたが、開業資金の内訳を見るとどのペンションも土地の取得と建物の建築で7〜9割が占められています。
つまりお寺にあいている土地や建物があれば(地方ほど、そうしたお寺は多そう)、もしくは廃寺を活用できれば、これだけで普通の人が民宿を開業するより、周りの人が歯ぎしりするほど有利です。
逆に宿を作りたいと思いながら何千万円(時には一億を超える)というお金を用意できない人にとっては、お寺と手を組むことは現実的な宿の開業選択肢になり得ます。
また、もう一点の特徴作りについて。これはお寺の宿というだけで、すでに他では真似のできない圧倒的なオンリーワンです。さらに仏教体験を組み合わせれば、他の追随を許さない無敵の宿になります。
厚生労働省によると、平成25年3月末現在のホテル営業施設数は9796施設、旅館営業施設数は44744施設、簡易宿所数は25071施設となっています。
しかし宿坊は多くみても500軒。しかも高野山(52軒)や善光寺(39軒)など特定の地域に固まっているので、探しても一軒も見つからない県はたくさんあります。
さらに実際に宿坊を開設した数ヶ月後には、それまで何の特徴もなかった田舎町のお寺に(一円の広告費もかけずに)メディア取材が殺到している例もあります。これも一般の旅館がオープンしただけでは、なかなかありえないアドバンテージでしょう。
ついでに手前味噌ですが宿坊研究会は月間50万ページビューはある、寺社好きが集まるサイトの中でもトップクラスのものとなっています。またそこでの宿坊紹介にお金を頂いているわけでもありません。
実際に宿坊を始められたお寺さんから、最初の1~2年は9割の宿泊客は宿坊研究会からだったというお話を頂いたこともあります。
このような環境の中で宿坊は開業資金と広告費を抑えながらも軌道に乗りやすい要素が多く、宿の運営という点では大きな利点があります。
宿坊はお寺または神社であると同時に、宿泊業でもあります。そこにはお坊さん、神主さんとは異なるスキルが必要です。しかしこの本では他の仕事から転職して宿を開いた方の話も多数紹介され、(もちろん簡単な道ではないでしょうが)決して身につけられないスキルではないことが分かります。
日本にあと100軒(できれば各地に分散して)宿坊ができれば、私は日本の観光環境と寺社環境は大きく変わるとにらんでいます。毎日受け入れられなければ季節限定でもいい、食事が出せなければ素泊まりでもいい、温泉も大げさなおもてなしも必要ない。
宿坊の開業に興味を持って頂ける寺社や旅館を開設したい方がいれば、ぜひ一緒に力を尽くしていきたいと考えています。