宿坊を開くための7つのリスク軽減策。宿坊開設を迷っている方におすすめです。
お寺や神社が宿泊施設を開く。こうした話を聞くと、突拍子もないことに思えるかもしれません。実際に私は檀家さんや氏子さんが減り、この先の将来展望に悲観的なお坊さんや神主さんに宿坊開設を提案してきましたが、多くの方の反応は「アイディアとしては面白いけど、実際に行うのは難しい」という苦笑いでした。
まあ、気持ちは分かるんですけどね。寺社にとっては、大きな方向転換ですし。ただ、これはもちろん、全面的に宿泊施設を整え、ある日から突然旅館としてフル稼働させようと思えばものすごく大変です。宿坊を開設するためには「初期費用」「営業許可取得」「技術・ノウハウの習得」の3つのハードルがありますが、こうした壁を出来る限り低くすることも重要です。
そこでここでは、宿坊開設ハードルを下げるためのアイディアを列挙して紹介します。これらは現在、全国寺社観光協会さんと行っている『宿坊創生プロジェクト』でもお寺に提案を始めている話題で、なるべくリスクを減らしながら、一歩ずつ宿坊化を進めようともくろんでいます。
宿坊を開くための7つのリスク軽減策
(1)身内の宿泊
不特定多数の相手ではなく、知り合いのみを受け入れる方法です。これはすでに日常的に行われている寺社も多いでしょうが、そこに「将来の宿坊化のための足掛かり」という意識を付け加えることで、見え方は全く変わります。
私の知り合いでも、少年野球の合宿などを受け入れたことがきっかけで、将来的には宿坊を行いたいと考え始めたお寺の方もいます。
(2)宿泊を伴う修行体験等の開催
定常的に宿泊者を受け入れる「宿」としてではなく、イベントとして宿泊者を受け入れます。単発であれば設備投資を行わず、あるものを活用するだけで開催可能です。また、それによって設備や備品など必要なものの見極めや、運営ノウハウを学ぶこともできます。
実際に私もお寺の修行体験会や泊まり込みでのボランティア募集を手伝いました。その中で人を泊める大変さを感じて宿坊化を諦めたお寺もありました(それもやってみたからこそ分かったことです)。そして福井県の国泰寺さんは積極的に宿坊化を目指すために、宿泊ボランティアさんから意見を聞いています。
苦痛をともなう法要が人を巻き込んだら楽しくなった。福井県国泰寺さんの事例
机上の空論で宿坊を始めようとか、絶対にできるはずないなんて思っていても、埒があきません。とりあえず一回やって試してみる。そんなところから状況は進展していきます。
(3)ミニマム宿坊
お寺や神社であまり使われていない部屋を、一部屋のみ宿泊施設として運用します。また週3日のみ、祈祷や法事の入らない平日のみ、お盆やお彼岸は休止など、時期を限定することもひとつの方法です。
忙しさのピークがはっきりとしているのもお寺や神社の特徴です。私もお坊さんの講習会で講師をさせて頂くと、平日にできるお寺の活性策はないかと聞かれたりします。そんな方は、こうしたミニマム宿坊も有効ではないでしょうか。
(4)素泊まり営業
宿泊業を行うに当たり、大きな問題となってくるのは料理です。調理技術は一朝一夕では身に付きませんし、飲食店営業の許可は旅館業と別に必要になります。そこでこれらを省いて素泊まりのみとすることで、開業への垣根を下げることができます。
むしろ積極的に地域の飲食店に送客した方が、地元にも喜ばれます。宿坊創生プロジェクトでは、宿坊をお寺・神社の単体活性策として考えるだけでなく、地域にどういった派生効果を及ぼすかにも意識を向けています。
また、お風呂も同様です。近くの銭湯と提携して、宿泊者に入浴券を渡す宿坊もありました。街中の銭湯は減少傾向ですが、近くにそうした場所があれば銭湯文化の継承にも一役買えるでしょう。
(5)ホームステイの受け入れ
海外からの留学生など、ホームステイの受け入れ先として寺社が名乗り出ることも有効です。日本文化を知ってもらうという名目も付きますし、旅館業の営業許可も不要です。
これは全国寺社観光協会の方からお聞きして、盲点だなと思いました。旅行者・参拝者を泊める宿坊とは少し毛色が異なりますが、意義深い活動になっていきそうです。
(6)宿泊と宗教部門の切り分け
個人でペンション開業しようと思えば、土地と建物だけで数千万~一億円の資金が必要です。このためお金の問題で夢を諦めている人がいます。
旅館開業資金の8割をカットできる宿坊は、反則的にメリットだらけ
また少し規模が大きな寺社には、旅館運営を手掛ける企業で宿坊に興味を持つところもあります。今年開催した宿坊スタートアップミーティングでは、こうした外部からの期待の声も上がっていました。
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(7)周辺旅館との提携
どうしても宿泊施設を作ることが難しい場合、周辺のホテルや旅館と提携することも一案です。宿泊者に朝のお勤めや修行体験を提供することで実施します。ただしこの場合は主体が外部になるため、寺社が何を目指して手を結ぶのか、具体的な設計図を描いておくことが重要です。
まとめ
宿坊を開設することは多くの寺社にとって未知の領域です。それに対して目算だけで足を踏み出そうとすると、難しいと諦めることになったり、見当違いの方向に進んで大きな失敗を生む可能性もあります。
そこでまずは小さく、小さく、宿坊を開いてみる。そこで得た経験をもとに、階段を登るように宿坊を整えていく。常に前に進む意識と撤退の道筋を残しておくことで、宿坊開設へのリスクは最小化することができますよ。