信仰につながらない寺社イベントには、黄金文脈が足りない
ほーりーがお坊さんの講習会で講師をする時、よく話すテーマの一つに『黄金文脈』があります。これは私が考えた言葉でどこかに定義があるわけではありませんが、「○○だから、××する」「○○があるから、××する」という言葉のつながりを表したものです。
具体的には寺社に古くからある信仰や伝承を掘り起こし、それを現代ニーズとつなげます。ストーリーほど複雑ではないけど、単語だけでは足りない。そこで「文脈」です。
例えば「寺社にあるもの」だけを押し出すと、単なる独りよがりになります。一方で「現代人のニーズ」だけを取り上げると大衆迎合と揶揄されます。
そこで「寺社にあるもの」と「現代人のニーズ」がどうやったら結びつくかに頭をひねる。それを作り出すのが企画だと私は考えています。
黄金文脈の例
日本各地の寺社を見た時、こうした黄金文脈が生きている例はたくさんあります。ということで今回は、3つほど紹介します。
東京都・武蔵御嶽神社の愛犬参拝
東京にある武蔵御嶽神社は、狼が神様として祀られています。そこで犬の参拝環境を整えたところ、大ヒットしました。
ケーブルカーにはペットの乗車券が用意され、神社には犬の手水やお守り、愛犬のご祈祷所もあります。また一緒に山を歩くトライアルコースも設定され、週末にはあちこちで犬を連れた参拝者を目にします。
もしも「愛犬と一緒に参拝」だけであれば、ペットブームに便乗したと反感を覚える方も出るでしょう。ですが「狼信仰の聖地だから」という文脈があれば、説得力が変わります。さらに普段は意識の向かない「そこにどんな神様がいるか」についても、さりげなく答えを提示できます。
静岡県・可睡斎の禅と睡眠
静岡県にある可睡斎は、目の前で居眠りした住職に徳川家康が「和尚、眠るべし」と声をかけたことから寺名がつきました。こちらは現在、坐禅と眠りに関して情報発信を行いながら、宿坊では禅を用いた良質な眠りもアピールしています。
坐禅の呼吸はストレス耐性を高めるセロトニンの活性に役立つと言われています。またこのセロトニンが放出されると眠りを誘うメラトニンも分泌されます。
世の中に坐禅をしない人はたくさんいても、眠らない人は一人もいません。なので「睡眠」を坐禅への入り口にする。そしてそれを行うのが眠りと深いかかわりを持ったお寺というのは、説得力を高めます。
石川県羽咋市のUFOで町おこし
石川県羽咋市の気多大社には、古文書に空を飛ぶ不思議な物体について書かれた記述があります。そこでUFOの街としてPRを開始し、地元青年団のゲリラ活動から国際会議にまで結びつけました。本物のロケットをNASAから購入した「コスモアイル羽咋」は人気を呼び、地域活性の成功例として語られています。
UFOの街なんて、突拍子もなさすぎです。それでも神社の古文書に書かれていれば、理不尽にも説得力が出てきます。
遥か昔、謎の物体が飛んでいた(と、記録されている)から、UFOの町にする。黄金文脈の典型例です。
ということで、、、
お寺でのイベントには法話や読経を取り入れようという話をよく聞きます。これは大切ですし否定するつもりもないですが、どこか「添え物として法話や読経を聞いてもらおう」という消極的な印象を受けます。
それよりも寺社本来が持っているものを使い、その良さを現代に通じるところまで高めた方が、寺社が伝えたいことを自然な形で伝える役に立ちます。
また、お坊さんと話をしていると、「うちには何もないから」という言葉をよく聞きます。
これは「うちには(頭を使わなくても人を勝手に惹きつけてくれるものが)何もないから」と、カッコ書き付きで私は聞いています。ついでに言えば、「私は頭を使うつもりがありません」と意訳して読み取っています。
「うちには何もない」なんて、そんなの当たり前です。今や超メジャーになった興福寺の阿修羅像だって、私が学生時代に最初に見た時はガラスケースに入れられ、みんなが素通りするような状態でした。高野山に宿坊について問い合わせたって、「どこも一緒だよ」とつれない返事が返ってきたものです。
「○○だから、××する」「○○があるから、××する」という黄金文脈は、寺社でこれまで見向きもされなかったものを、多くの人と結びつけるシンプルな手段です。さらにひとたび広まっても周りで真似しづらいので、独自性が保てます。
先日、『「それはお寺じゃなくてもできる」という、思考停止ワード』という記事を書きました。
ほーりーはお寺や神社では、どんどん新しいことを行っていった方が良いと考えています。しかしせっかくやるのであれば、それをお寺や神社ならではに昇華させてほしいとも願っています。
その昇華の一手段として、黄金文脈は効果を発揮します。もしも自分の企画が周りから唐突過ぎると思われている方がいるなら、この黄金文脈が作れないか、頭をひねってみてはいかがでしょうか?