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一泊10万円の富裕層向け宿坊を嘲笑ってはいけない

01.宿坊
 

妙心寺大心院の客室から

昨年末、宿坊界(という、とっても狭い業界があるとしたら)に、激震が走りました。

日経新聞に高級ホテル大手のハイアットが、京都で1泊2食付き10万~20万円の富裕層向け宿坊をオープンさせるというニュースが掲載されたのです。

米高級ホテル大手のハイアット・ホテルズは年明けにも、京都の寺院で宿泊サービスを始める。世界文化遺産の天龍寺など5カ所で施設管理を受託し、京都の傘下ホテルの宿泊客を対象に座禅などが体験できる宿泊プランを提供する。外国人客の多い京都で観光名所の寺を「宿坊」として利用できる新サービスを通じ、富裕層の取り込みを狙う。

この話、メディアの方から私のもとにも取材が来たりして、いろんな情報が入ってきたのですが、結果的にはどうも飛ばし記事だったようです。残念ながらこのニュースにあったように、今年中にこうした宿坊が生まれることはないかもしれません。

ですがこの富裕層向けのラグジュアリー宿坊という発想自体は、とても面白いと感じています。

そもそも日本の宿坊は価格の多様性が少なすぎる

日本中の宿坊を見ると、ある共通点に気がつきます。それは宿泊価格帯が一泊二食8000〜10000円前後と、ほとんど差がないことです。価格は宿泊者の属性を絞る大きな要素です。

そもそも宿坊に限らずホテルの価格帯に多様性がない事、特に高価格の宿泊施設がないことは、日本観光の問題点としても指摘されています。

日本の観光業界に大きな提言をもたらし、「カンブリア宮殿」などにも出演されているデービッド・アトキンソンさんの新・観光立国論にも、このことが書かれていました。

・仮に価格帯の全体の幅を100とすると、0~40くらいまでのホテルしか整備されておらず、観光に対して多くのお金を費やす層はフォローできていないように思える

・世界では高級ホテルというのは、1泊400万~900万円という価格帯のところを呼ぶのです。

・もちろん、超富裕層のためにホテルを用意しさえすればいいと言っているわけではありません。安いところから高いところまで、階段のように途切れるところのないホテルの多様性を強調したい

この本は本当に、宿坊の未来を考える上でも示唆に富んでいます。私もしょっちゅう、読み返しています。



 新・観光立国論

 デービッド・アトキンソン 著

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しかし、このようなことを書くと、

「お寺がそもそもそんな商売するなんておかしいでしょう。一泊1万円だって普通の旅館と変わらないし。3000円くらいでいいんじゃないんですか?」

と、いう意見が挙がります。

この言葉は気持ち的に、とてもよく分かります。また社会に階級差が自然と横たわっているヨーロッパなどと異なり、日本社会は価格で人を選別することも基本的に好きではありません。私自身も1万円の宿坊はともかく一泊10万円の宿坊は泊まることができないので、感情的にはこうした宿坊ができてもちょっと複雑です。

ん? でも、日本人がお金で人を区別しないというのも、ちょっと違うかな。戒名だってお布施の金額で、いくらでも名前が変わるし。あれはホテルの価格差なんて比じゃないくらい、ヨーロッパの人から見ても理不尽です。

また、街中を見渡せば、料理だって300円くらいの牛丼から、ちょっと食べただけで諭吉さんが何枚も(何十枚も?)飛ぶお寿司屋さんもあります。

結局、価格差がついても冷静でいられるものといられないものは、社会の文化や成り立ちで異なっているのでしょう。そして重要なのは海外の人を迎え入れるなら、相手の文化もしっかり噛み砕いて、物を作らなければいけないということです。

一泊1万円の宿坊がいくらできても10万円の宿坊が1軒もなければ、宿坊なんて目にも止まらない層が、世界にはたくさん存在します。

宿坊には10万円払う価値があるのか?

価格を上げる精神的な抵抗を乗り越えたあと、次に出てくる問題がこれです。果たして、そんなに料金上げて、泊まる人がいるのか。

私はいると考えます。日本人にはほとんどいないかもしれませんが、海外の富裕層は間違いなく泊まります。

ちょっと前の話ですが、2010年に横浜で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の時、一緒に来日した各国のファーストレディが、鎌倉の建長寺で坐禅体験をされていました。

いや、ファーストレディって、セレブ中のセレブの中のセレブですよ。フランスの新聞社で行われた「歴史に残る二十世紀の百の言葉は?」というアンケートでは、「ゼン」も選ばれています。また最近ではマインドフルネスの広まりなどもあり、お寺やそこで行われる体験が世界トップレベルの人にも通じるものと認識され始めています。

私も初めて宿坊に泊まった時、美しい木造建築と目の前に広がる日本庭園に、これがなんで5000円もしないで泊まれるのかと驚きました。

妙心寺大心院

その後も100軒くらいの宿坊に泊まりましたが、国宝・重要文化財の建物に入れたり、名勝指定の庭園が眺められたり、坐禅や写経などで精神文化に深くふれたり。いやー、ほんと。ありえないです。宿坊は日本トップブランドの宿になってもおかしくないのです。

もちろん、本当に一泊10万円の宿坊を作るとしたら、根本から作り替えなければならない部分はあります。歴史があるから、風情があるからだけで、不便さには目をつぶってくれる超富裕層は少ないでしょう。

ラストサムライ主演のトム・クルーズは、ロケ地となった書寫山圓教寺の宿坊には泊まらず、神戸のホテルからヘリコプターで連日出勤したという話もあります。もちろん、トム・クルーズクラスであれば、圓教寺の宿坊に泊まることでいろんな危険も生まれるでしょうが、そこまでいかなくても富裕層を泊めることは、そういう対応も含めた話になります。

宿泊費10万円の宿坊が、宿坊や寺社にもたらすもの

そして高級宿坊が生まれたら、世界が宿坊に向ける目も変わってきます。世の中には富裕層向け情報誌などもありますし、そこで宿坊が取り上げられることで「Shukubo」にも興味が集中します。余談ですが超富裕層向けの情報誌って、本物のお城やプライベートジェットの販売情報などが載ってたりします。

そんなものを読んでいる人たちも、特にこれまで日本には高級ホテルが少ない現状もあり、意外と日本は未開拓な旅行地域だったりします。そんな時にお寺に泊まる旅がジャパンブランドとして認知されれば、旅行者が殺到する可能性も秘めています。

さらに京都で10万円の宿坊が生まれれば、地方では3万円の宿坊が作りやすくなります。またこうした宿坊が相次ぎ、宿坊自体にプレミアム感が作られれば、素泊まり3000円の宿坊もこれまでとは違う目で見られます。

変な例えですが私が中学生の時、ドラクエの最新版が出たことがあります。当時は発売日に店の前で並んでも買えない状態でしたが、新しいゲームが手に入らなかった私や友人は、一斉に一つ前のシリーズを熱心にやり始めていました。手に入らない憧れの何かがあると、手に入る別の何かに興味が向かう現象です。プレミアムな宿坊があると、低価格層の宿坊も価値が増していくのです。

ついでに海外で宿坊への興味が増幅されると、それは日本人にも波及します。これも日本の特性ですが、外で評価されるものは内部でも評価が高まります。

妙心寺大心院の廊下

お寺はお金を稼いじゃいけないという風潮からの脱却を

私は今のお寺が疲弊している大きな要因のひとつは、お寺がお金を稼いじゃいけないという世間の(もしくはお寺の中にいる人たちの)風潮から来ていると感じています。結局、あれをやって儲かれば叩かれる、これをやってお金が入れば叩かれるのです。

その結果、前例踏襲で葬儀法要のみに収益基盤が集中し、一本の足だけで倒れそうになっているのが今の状況です。

きっと一泊10万円の宿坊も、本当に生まれたら世間から批判は浴びるでしょう。ですがそうした宿坊の登場は、お寺にもお金は必要だという当たり前のことを世間に問いかける問題提起になります。それはにっちもさっちもいかなくなってから境内地をつぶして駐車場にしてしまったり、お寺に伝わる文化財を売り払って歴史を失っていくよりよほど健全です。

宿坊は単なる観光としてだけでなく、時間をかけてお寺に滞在する施設です。時間が生まれればそこで仏教にふれることも、厳粛な空気にふれて日常を振り返ることもしやすくなります。

お金を稼ぐだけだと抵抗があるようなら、稼いだお金を社会に還元したり、地域社会にも役立てていけば良いのではないでしょうか。

高級路線の宿坊誕生は、お寺のあり方を問い直すひとつのきっかけにもなっていきます。なので私としては生まれてほしいし、それが本当に生まれるかどうかは、お寺がお金を稼いじゃいけない精神の払しょくにかかっていると考えています。

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