身延山はなぜ動かないのか。久遠寺に長年勤めた僧侶の考察
先日書いた身延山はもっと情報発信しようよという話。日蓮宗や観光業界の方に熱く受け止められたようです。
記事を書いた3日後にわざわざ私に話を聞きに来られた方がいたり、日蓮宗の方からも少なくないメッセージを頂きました(賛否両論含めて)。
その中で、身延山で長年奉職していた経験を持つとある日蓮宗寺院の住職が内部から感じたことをお寄せくださり、ご本人の許可を頂いたので紹介します。
なぜ身延山は動かないのか
宿坊研究会のコラムを拝見し是非お話をさせていただきたいと思い、メールをさせていただきました。
突然のメールで大変申し訳ございませんが、コラムの内容に大変共感し身延に対しての危機感を持っている身としても気持ちを抑えられずメールしてしまったことをお許しください。
(自己紹介のため、中略)
コラムの最後の日蓮宗ってという原因の部分に対する私なりの考察です。稚拙な考察ですが判断材料の一助にしていただければと思います。
■なぜ身延は動かないのか
1.日蓮宗行政における身延山運営は聖域であること
身延山は文字どおり総本山であり、身延山の法主は国家でいうところの天皇です。天皇が住職をする寺院には宗務総長(総理大臣)は手を出せないのが実情です。
身延山内の住職が宗務総長になったこともありましたが、身延に問題はないとの考えなので手をつけませんでした。日蓮宗門(伝道部)などは盛んに身延山に手をつけたがっておりますが拒否されています。
2.山内や周辺寺院の僧侶の意欲の欠如と資質の低下
身延山周辺地域の南巨摩郡は山梨県の中でも過疎地域としても問題になっておりますが、一向に対策を講ずる気配すらありません(日蓮宗では対策を考えているようですが)。
このままでは過疎地域として檀家減少の末、運営困難寺院が多発することは容易に想像できます。
また僧侶によるトラブルも増加し(山梨県内では身延山がダントツです)対応策が取れていないことも原因と考えられます。
3.身延山関連業者のまとまりの無さ
身延山の観光関連業者の収入は増収です。身延山の収入は減少の一途です(新興教団頼み)。この現状をどう捉えるかの想像力の欠如があると考えられます。
関連業者も足の引っ張り合いを繰り返してもいます(やる気のあるごく少数もいる中で)。
以上、原因が様々ある中での代表的なものです。稚拙な考察文章ですがお読みいただければ幸いです。
問題はどんな場所のどんな組織にだってある
結構手厳しい話です。とは言え私はこれを紹介するから、身延山がだめだなんてまったく思いません。
また、あくまで内部にいた一僧侶の感じられたことで、すべてがこの通りと言うつもりさえありません。様々な立場や視点から、それは言える、事実誤認だ、という部分もきっとあるでしょう。
実際に身延山を少しでもお参りしやすくなるようにと頑張っている方もいますし、宿坊で一生懸命外と中をつなごうとされている方もいます。
問題はどんな場所のどんな組織にだってあります。例えば話は少し変わりますが、成田空港と羽田空港の問題。成田は国外、羽田は国内と以前はガチガチに仕切られていました。
対比として適当かは分かりませんが、絶望的に動かなそうな状況であったことは、身延山と共通しています。
しかし2001年に韓国の仁川(インチョン)空港ができると、日本人ですら地方から羽田に出て成田まで移動して海外へ出るのではなく、羽田・成田をすっ飛ばして仁川経由で海外旅行を始めます。
その後、どんなに要望が多くても拒否されていた羽田の国際空港化が、あっさりと実現してしまったのはご承知の通りです。
私たちが生きている現代は良し悪しは別として、そのくらい早い動きで流れます。山梨県の過疎化、久遠寺の参拝者減少、身延山におけるキーパーソンの出現、周囲からの要望など、何がきっかけとなるかは分かりませんが、いずれ分水嶺を超えるタイミングが訪れると私は予想しています。
身延山の情報発信量は、あの規模のお寺からすれば異様な少なさですし、発信の仕方にちぐはぐさがあるのも先の記事に書いた通りです。
また私は日蓮宗の僧侶研修会や寺庭婦人研修会で講師をさせて頂いたり、身延山にも足を運んでいますが、身延山について感じることはやはり「お参りしにくい」ということです。
しかし身延山には以下のような、ものすごいポテンシャルがあります。
・都心から低料金でアクセスできる
・お寺の景観がものすごく壮大
・門前に宿坊が並んでいる
・湯葉という名物がある
・富士山が近く、外国人の観光誘致がしやすい
・桜以外にも美しい四季や年間通した行事がある
・街やお寺に思わず巡ってみたくなる小ネタが多い
そしてこうしたものを取っ掛かりに人が訪れるようになれば、法華経や日蓮聖人の教えに惹かれる人も増えていくでしょう。
風向きが変わることを祈って、今回はひとつの意見として頂いたメールを紹介させて頂きました。