税金の使い方センスが問われる政教分離を超える3つの分野
政教分離はこれから大きく変化していきます。これはちょっと前に観光業界の方向け講演でお話させて頂いたテーマですが、特にこれまでお寺や神社と全く関わりのなかった業界の方はアンテナを張っておいた方がよいかもしれません。
東日本大震災以降、行政とお寺の間で防災協定が結ばれる事例が増えています。以下は各地の自治体と宗教施設の災害協定状況を研究している、大阪大大学院准教授の稲場圭信氏によるコラムの抜粋です。
東日本大震災後、宗教施設と災害協定を締結する自治体が増えている。(中略)43の自治体が223の宗教施設と災害協定を締結していた。(中略)自治体と宗教施設の災害協定のうち、132施設、約6割(59・1%)が、東日本大震災後の締結であった。今後、自治体と宗教施設の災害協定・協力は益々増えていくであろう。
これは実際に私も実感しています。私の知り合いでも、自治体との災害協定を結んだお寺さんは震災後に増えてきました。
例えば、先日お邪魔させて頂いた金剛院さんには災害時の備蓄倉庫を見学させて頂きましたが、豊島区と『帰宅困難者対策の連携協力に関する協定』を締結されています。豊島区の広報誌にも載っていました。
あの大震災が起きた日。日本人は誰もが考えたはずです。この国のインフラバックアップは圧倒的に足りていないのだと。しかし、ハコモノ行政に批判が集まる昨今、公的設備だけでインフラを賄う選択肢は最適解ではありません。
つまり、新たに避難施設を作るお金は(都心であれば土地も)ない。しかしいざという時の備えは必要。この両者を満たす答えが、寺社との災害提携でした。
私も震災が発生した夜にツイッターなどで帰宅困難者の受け入れ表明をしているお寺情報を発信していましたが、境内の建物を開放したお寺はたくさんありました。宗教は人を救うことが目的であり、震災はそれを宗教者も一般の人も見つめ直すきっかけになったのでしょう。そして、この気運をひとつの契機に、私は政教分離の考え方も見直す時期にきていると感じています。
これは個人的な意見ですが、政教分離は基本的に信教の自由を目的としたものです。これはとても大切ですが、一方で行政とお寺や神社が手を組む上で大きな壁にもなってきました。
しかし宗教法人が税制面で手厚く優遇されているのは、もともと宗教には公益性があると考えられているからです。その意味付けを再定義しながら、寺社の公的役割を積極的に評価・構築する時期にきているのではないかというのが私の意見です。
そして私が政教分離がこれから超えられていくと予想している分野は、防災・観光・子育てです。これはどれも日本が抱える課題に基づくものです。
防災についてはすでに述べましたが、観光では私がアドバイザーを務めさせて頂いている(から、ということではありませんが)全国寺社観光協会というビッグプレイヤーが現れました。
こちらは官公庁と深いつながりを持ち、日本の観光立国化を目指して、行政と寺社をどんどんつなげ始めています。
地方の寺社はどこも疲弊状態ですが、これを地域観光の核としてブラッシュアップしていくにはそれなりの予算や制度改革も必要です。
ですがこれからの高齢化、人口減少時代において、日本がGDPを維持、さらには成長させていくために、観光は数少ない希望の持てる産業です。これまでのように政教分離を理由に寺社と必要な手すら結ばず日本が観光立国化を目指すなら、同じ人数の訪日旅行者を呼ぶのに何十倍という税金を投入しても足りなくなるでしょう。
特にこのままでは潰れていく寺社を宿坊にすることで海外旅行者を呼び込むことができれば、その投資は決して無駄にはなりません。地域に伝わる歴史や文化を守ることができ、世界に向けて日本の価値を発信することもできる。「観光」を接点とすることで、宗教と行政は大きな連携が測れます。
さらに子育てで政教分離を超えるビッグプレイヤーはまだ現れてはいませんが、これも日本の大きな課題であることに異論はないでしょう。私は幼稚園の園長を務める住職も何人か知り合いにいますが、お寺の幼稚園は日本中にあります。
また、私も少額ですが寄付させて頂き応援しているところですが、ファミリーホーム(小規模住居型児童養育事業)の立ち上げを目指してお坊さん達が中心に立ち上げた一般社団法人メッタ-という組織もあります。
そして私が結婚式を挙げた千葉県の本光寺さんでは、市川市の子育て応援企業で認定企業にもなっています。しかも多くの企業に先んじて、第一号で。
寺社は地域コミュニティとも密接な関わりがありますし、子育てと相性の良いものです。子育てを核に行政と寺社が連携すれば、これもまた行政がゼロからものを作るより効率が良いはずです。
寺社には眠った資源が多すぎなので、他にもきっと多くの分野でこうした流れは加速していくはずです。公的機関が多額の税金を使うことなく、今あるもので住民サービスの強化や経済活性化が図れるなら、それは寺社がこの先生き残っていくためにも大きな力になっていきます。
この先の公務員はお寺・神社だからと条件反射で政教分離を持ち出すのではなく、信教の自由と宗教の公益性は切り分けながらそろばんを弾いて考えられれば、大活躍できるのではないでしょうか。