檀家さん以上にお寺を支える信徒さんの存在は、真剣に考えるべき
ここ数日、お坊さん達の間でリンクが飛び交っていたAERAのこの記事。
檀家制度廃止で収入4倍のお寺。見性院は相変わらず、キレッキレですねー。https://t.co/lOChssrrjW
— ほーりー(寺社旅研究家) (@holy_traveler) 2017年8月3日
中身は埼玉県熊谷市にある見性院のお寺改革です。まあ、有名なお寺なので(お寺社会に関わる人にとっては)目新しいことはありませんが、記事内容を少しだけまとめると
・見性院が400軒近くあった檀家との関係を白紙に戻した
・檀家制度廃止にあたり橋本住職が重視したのが、「明朗会計」と「サービス重視」
・見性院の信徒は約800人と「改革」前の2倍となり、寺の収入基盤は確保された。
というものです。
これに対して
・“裏切り者”のレッテルを貼られながらも、改革に驀進中
・お布施の定額化などお金で換算していくと、仏教でなくなっていく
・若い僧侶が他の寺に行くと、「あそこのお寺には行くな」と言われる
といった周りからの大きな反発も、記事中には記されています。
ほーりーとしてはこうした道なき道を歩む方こそ、仏教者としての姿だとは思っていますが。なにせお釈迦様も各宗派の宗祖も、居心地が良いはずの組織から飛び出して自分の道を模索したことでは共通していますからね。
いろんな宗派の僧侶研修会で私がお話させて頂くことの一つにも、宗祖の「教え」はみんな大切にするけれど、宗祖の「姿勢」にはあんまり意識を払わないよねというものがあります。
横並びや前例踏襲だけでは、「出家」にはならないと考えるクチなので。
見性院の手法は、そのまま真似してもうまくはいかない
一方で見性院の手法は、ある意味でスター僧侶のみが歩める道ともほーりーは考えています。もうちょっと分かりやすくいうと、先行者利益を全部見性院が持ってっちゃったという話です。
檀家組織を解体し、すべてを投げ打ったお寺改革。これは物語性が十分です。実際に見性院はもう何度もメディアに取り上げられていますし、ご住職も本を書かれています。
お寺の収支報告書 橋本英樹 著 |
こうした見性院のお寺改革は事例としてはものすごく勉強になるのですが、そのまま真似してもうまくいきづらいでしょう。
だって檀家総代が集まる役員会で「これから檀家制度を廃止します」なんて、ほとんどの人に言えるとは思えませんし。その後に起こる混乱や反発をまとめることは、教科書で対応できる類のものでもありません。
そしてそれを乗り越えたとしても二番煎じで、新たなものを生み出すための周りへの訴求力は、すでに見性院にごっそり持っていかれています。
これは別に見性院が悪いのではなく、パイオニアはそれだけとんでもない茨の道を歩いているということです。見性院モデルは橋本英樹住職という稀代のお坊さんがいてこそ成り立ちます。
檀家さん以上にお寺を支える信徒さんを呼び込む道
なのでほーりーは檀家さんと併存させつつ、「檀家さんのように(あるいは、それ以上に)お寺を支える人」をどのように生み出すか? は、お寺に取ってこれから大きな命題になってくると考えています。
イメージ的には見性院のようにごそっと入れ替えるのではなく、少しずつ外部サポーターも巻き込みながら割合を変えていこうということです。地味なのでメディア受けはしないけど、そちらの方が多くのお寺に通用します。
以前、似たような議論が(真宗大谷派本山)京都・東本願寺の同朋会館で起こりました。
同朋会館は全国にいる真宗大谷派のお坊さんや門徒さんが宿泊する研修施設ですが、宿泊者数が年々減っていることが課題でした。
そこで新たに一般の人にも場を開こうという話になり、検討委員会発足時にほーりーが講演させて頂いた経緯があります。
そしてその時に幾つか私の耳に入ったのが「誰にでも開放するということは、これまでの教えを伝える場を放棄するのか」という言葉でした。特に宿坊研究会の堀内が来るということで、「宿坊」という言葉に強く反応されたようです。
検討委員会の方も研修施設としての役割を終わらせ、単なる宿泊施設にしようなんて誰も考えてはいなかったのですが、イチかゼロかみたいな極端な声はありました。
参考:お寺を開くことは本質を磨く力になる。東本願寺でお寺活性講演をさせて頂きました。
また、こうした新旧コミュニティの併存に取り組んでいる例としては、私が顧問を務める霊園会社・アンカレッジもあります。
「お寺と人をつなぐお墓」をテーマに、お寺に樹木葬墓地を作っている会社ですが、檀家となることを義務付けてのお墓販売はしていません。それはマーケティング調査で檀家になることを条件とすると、9割以上が敬遠すると分かっているからです。
しかしアンカレッジは、「お墓は布教への入り口であり、購入されたことをきっかけとしてお寺が密なコミュニケーションを取る」という方針を掲げています。
このため以下は樹木葬墓の購入者のうち、道往寺(浄土宗)で法要や葬儀が行われた割合です。最初は宗旨不問でもお坊さんがしっかりと顔を見せて対話をすることで、8割以上の方が葬儀法要を依頼されています。
この数字は別の宗派のお寺でも、やはり同じようになっていました。
アンカレッジのお墓はお寺のリスクを極力抑えるスモールスタートを大切にしており、境内の墓地の一画にあるちょっとした空き区画に作られることが多いです。
このため従来の檀家さんとの住み分けもしやすく、また庭苑型の墓地が境内を彩り豊かにすると、これまでお寺に出入りしていた方(特に女性)にも好評です。
お寺の樹木葬については、以下にもまとめていますのでよろしければご参照ください。
参考:駐車場3台分の土地で1億円以上の大ヒット。お寺の樹木葬を改めて紹介
ということで、、、
見性院やAmazonのお坊さん便など、破壊的創造モデルがたびたび議論を巻き起こしています。ほーりーはこうしたものにある程度は賛成派ですが、自分が勧める立場に立った時はもう少し柔和な仕組みの方が好みです。
東本願寺さんでもイベント的なところから小さく始めて、内外が両輪で盛り上がる仕組みをお話させて頂きました。
またアンカレッジの顧問を引き受けているのも、お寺に取って負担の少ない(しかし軌道に乗ればしっかりとお寺を支えられる)お墓であることも、理由の一つにあります。
株式会社寺社旅も社員は私と妻のみですし、あんまり人を雇ってガツガツ広げる進め方は、ほーりーの性格的にも合いません。
そんなわけでゼロを100にするのではなく、1、2、3と少しずつ始めて20くらいまでいけばいいという生ぬるいスタンスがほーりー流です。
基本的に旅人ですからね。自分が入れるところがちょこんとあれば、それでおーけーなわけですよ。