熊本地震から見た宿坊による防災・減災の可能性
宿坊による、防災・減災について興味があります。
もともとのきっかけは、2016年4月に発生した熊本地震でした。私も被災地支援を行っているいくつかの仏教系団体に寄付させて頂きましたが、寄付先を探す過程で様々な支援のあり方を目にしました。
その中で注目したのは、被災者の一時受け入れについてです。熊本県を始め、九州各地のホテルや旅館で被災者の受け入れが行われました。特に高齢者や障がい者など、特別な配慮が必要な方は優先的に手配されています。
観光庁からは、「被災された方へ宿泊施設を提供します」という告知も行われていました。
平成28年熊本地震で被災され、避難所での生活において特別な配慮を要する方を対象として、熊本県と、熊本県旅館ホテル生活衛生同業組合による「災害時における宿泊施設等の提供に関する協定書」に基づき、熊本県内の宿泊施設において宿泊希望の受け入れを実施しています。ご利用希望の場合は、以下の通り取扱いを行います。
【対象】
高齢者、障がい者、妊産婦など避難所での生活において特別の配慮が必要な方とその介助者【提供内容】
宿泊場所、食事及び入浴施設の提供 (専門的な介護、特別な配慮を要する食事の提供を除く。)【提供期間】
応急仮設住宅等の整備により避難所としての利用の必要がなくなるまでの期間【費用】
無料
また、私が見た限りでは浄土真宗寺院が一時避難先として、大きく呼びかけられていました。参加寺院数は不明ですが北海道までお寺が加わり、facebookを通して多くの方に拡散されています。
他にも民泊仲介サービスとして有名なAirbnbも、被災者を無料で受け入れるホスト支援に乗り出していました。仲介料をゼロにしたことはもちろん、通常のカスタマーサポートも提供され、こちらも支援ホストにお寺が一軒名乗り上げています。
振り返ってみれば東日本大震災が発生した日も、帰宅困難者のために建物を開放した寺社はありました。私も当時、Twitterなどで受け入れ表明していた寺社の情報を拡散していたことを覚えています。
大規模災害時には、間違いなく宿泊施設は活躍します。そこで鍵を握ってくるのは宿坊です。
宿坊は観光だけでなく、防災でも行政と連携できる!
通常は宿泊施設として運営しながら、いざという時には災害支援のインフラにもなる。これは寺社にとっては負担ですが、日常的に行政との連携が得られる点でメリットにもなります。
実際に3.11以降、日本では行政と寺社が防災協定を結ぶ例も急速に増えてきました。そしてここにきて観光分野で手を組む兆しも生まれており、私はこれから政教分離が新たなステージに入っていくと予想しています。
先日行った、自民党本部ビルでの講演も、観光に携わる議員や秘書の方などに宿坊が今後活用できる領域のひとつとして災害対策を挙げさせて頂きました。
熊本地震後、実際に現地入りしたり支援物資をまとめて送ったお坊さん、神主さんの活動もたくさん見ています。一般の人間がボランティアに立つのと異なり、被災地域の寺社と連携しながら円滑な支援が差し伸べられるのは、お寺・神社の大きな強みです。
自然災害の多い日本では、まだまだインフラのバックアップは足りていません。しかし各自治体の財政がひっ迫し、ハコモノにも批判が集まる昨今、公的設備だけですべてを賄う選択肢は最適解ではないでしょう。
そこで宿坊がいざという時の避難施設として名乗り上げられれば、お寺や神社が人を救う場であると、多くの人に認識される材料にもなっていきます。
宿坊が防災・減災の一機能を担うことは、日本全体にとって希望の持てる話です。