苦痛をともなう法要が人を巻き込んだら楽しくなった。福井県国泰寺さんの事例。
先日、福井県勝山市にある国泰寺さんから、お施餓鬼法要で人手が足らずに困っている旨、相談のメールを頂きました。
このお寺の住職夫妻はお仕事の関係で普段は京都で生活しており、週末や行事の時に福井に戻って、お寺のことをされています。
しかしそろそろ高齢になってきており、娘さんは求職活動で忙しく、またお知り合いの方のお手伝いもだんだん難しくなってきたとのことでした。
そこで私が提案したのは、お施餓鬼法要のボランティアを宿坊研究会で募集することでしたが、これが非常に喜ばれた事例でしたので紹介いたします。
福井までボランティアに出かけるのであれば、何かメリットがなければいけない。私はそれを以下の2つに分けて考えました。
○お寺の法要行事に直接参加すること
○福井のお寺に無料で宿泊して、付近の観光もできること
ちょうど国泰寺さんには宿泊できる場所があったため、この2つを両方クリアすることができ、お寺の方と一緒に募集内容を考えながら約1カ月前から告知を開始。
勝山と言えば日本海側の都市の中でもアクセス条件の悪い方の福井から、さらにえちぜん鉄道で一時間も奥に入った場所にある街です。正直言ってお寺の方はもちろん、私も手を挙げて下さる方が出るのは難しいかと思っていた募集でした(ですので、何とか参加者が現れるようにと告知文章を練りましたが)。
ちなみにその告知内容はこちらです。
福井県勝山市でお寺行事のボランティア募集。お寺に泊まって観光もできますよ。
しかし、結果としては大成功。6名(男性2名、女性4名)の方からお申し込みがありました。当日はちょうど台風が来たことから関西方面から福井に行くことができずに3名のキャンセルがありましたが、関東方面から来られた方やお寺のお知り合いの方も加わって、計4名のボランティア隊が結成されました。
そしてそのボランティアの方々の活動内容は、以下の通りです。
8/9 AM9~12 研修道場(1階拭き掃除)、斎堂(掃除機)、本堂(掃除機、拭き掃除)、大師堂(掃除機、拭き掃除)、施餓鬼壇組み立て、水子地蔵掃除等 昼食後、住職弟の案内で平泉寺跡等観光 8/10 AM~PM3:30 は自動車で観光(永平寺等観光されたようです。) 8/11 AM 東京からの2名はお帰りになり、男性はもう一日お部屋やトイレの清掃をして下さいました。 |
また、お寺の方から頂いたメールには
皆さん懸命に作業をして下さり、親類の方々からもボランティアさんは大好評でした。毎回準備等大変でかなり苦痛をともなう法要でしたが、ボランティアの方々に新しい空気を運んでいただき、とても楽しい充実した法要となりました。 |
というご感想がつづられ、ボランティアの方々の写真も送って下さいました。写真で見る限りではみなさん、本当に楽しそうで良い体験になったようです(ボランティアの皆様、ありがとうございました)。
話は前後しますが、先日中外日報さん(仏教関連を専門に扱う業界新聞)から、「お寺を地域に開きたいが、利用者のモラルが心配」というご住職の相談に答えてほしいというご依頼がありました(この新聞、お坊さんが投稿する相談コーナーがあるんですね!)。
私がそこで回答したことは、「全体のモラル」と「ルールを破る例外的な逸脱者のモラル」を分けて考えることでした。
例外的な逸脱者は出ることを覚悟したうえで、なるべく出さないように目を配り、出てきたときは迅速に手を打つことが大切です。しかし全体のモラルについては信じることが鍵を握ります。全体に対してモラル違反と感じることの大半は、利用者・管理者のコミュニケーション不足に起因します。
そして、部屋が汚くならないか、何かものを壊されないかと住職が一人で気をもみながら見ているくらいなら、積極的に部屋の掃除や後片付けも利用者に頼んで巻き込んでしまおうということを提案させて頂きました。
今回の国泰寺さんはこの質問されたご住職とはちょっと状況が異なりますが、それでも周りを巻き込む方向に舵を切ったことで、お寺もお寺に関心を持つ人もハッピーになった一つのケースだと思います。
もちろん、宿坊研究会の発信力(自分で言うのも、なんですが)がその媒介になったもので、すべてのお寺ですぐにできることではありません。ですが国泰寺さんは宿坊を開く準備も進められており、いずれはこうしたボランティア募集も自分でできるようになると思います。
これまで身内や関係者だけで閉じていたお寺に、外部の人間が出入りすることで活力をもたらす。お寺を開くことにはこうした意義もありますと、いろんなお寺に行きたい側の立場から事例を紹介してみました。