対馬で伝えた地域の期待がお寺の想いと空回りしないためのロジック
九州北部に浮かぶ国境の島・対馬。新鮮な魚介やツシマヤマネコ、朝鮮通信使などの歴史に最近だとゴースト・オブ・ツシマ(対馬を題材にしたゲーム)も人気です。そんな魅力たっぷりのワンダーアイランドですが、こちらで『寺泊勉強会』が行われ、講師としてお呼ばれしたので出かけてきました。
ちなみにこの勉強会は対馬市の観光関連部署などが絡んでいるため、観光庁でも使われている「寺泊」という言葉が全面に来ています。が、まあ、ほーりーは「宿坊研究会」なので、宿坊も寺泊も言葉としてはどちらも使います。いろんなハードが出てもすべて「ファミコン」と呼ぶおかんみたいだとか言わないでね。
そんなわけで、まずは福岡空港へ。そこから対馬やまねこ空港へと向かいます。
しかーし。やったね! 初対馬。楽しみだねと飛行機を待っていると、何やら怪しいアナウンスが。
飛行機が飛んでも天候次第で福岡に戻るかもとのお知らせです。そんなに多いことではないそうですが、ここまで来て博多でもつ鍋食べながらオンラインセミナーになったらどうしよう! と、関係者一同ドキドキ状態からのスタートでした。
1/88カ寺しか宿坊開設の意思がなかったというアンケート
開始前から無駄に緊張が高まりまくった対馬ですが、祈りが通じて飛行機は無事に着陸できました。
対馬は日本では佐渡島、奄美大島に続いて三番目に大きな離島です。そして歴史的に大陸との窓口であったことから、お寺も多くあります。
さらに中心となる厳原町(いづはらまち)には、すでに宿坊を営んでいる対馬西山寺も人気です。そんなバックグラウンドがあるので地元の方も、いろんなお寺に泊まれるようになったらめちゃくちゃ面白いぞ! と、期待が高まっていたそうです。
ただ、ここで興味深いのは、事前に行われたお寺の方へのアンケートです。他地域の方にも参考になるデータですし、紹介してよいよと言われたので引用しますが、88カ寺に連絡して30カ寺から回答があり、その中で実際に寺泊をやってみたいと答えたお寺は1カ寺だったそうです。
この結果を見て、関係者は意気消沈してしまったとのこと。まあ、そうですよね。これだけお寺があるのに1カ寺しか手を挙げてくれないの? と、なったら、それは確かにショックでしょう。
ただこれはほーりーの見地からすると、全く悲観することではないように思えます。
基本的にお寺にとって宿泊業は未知の領域ですし、やりたいと思うところは100軒に1軒あるかどうかです。それなのにまずその一カ寺が見つかったのは、とてつもない成果です。付け加えるとそのお寺の住職とお話したら、めちゃくちゃパワフルでやる気もある方でした。
そしてこれだけ地元がバックアップ体制を組んでいるのであれば、お寺にとっても相当チャレンジしやすくなります。実際に福井県の『丸岡城天守を国宝にする市民の会』さんが企画して生まれた妙光寺の宿坊も、スタートは似たようなところから始まっています。
さらに上でも述べた対馬西山寺さんは宿坊をすでに営んでいますし、宿泊は難しいけど仏教体験でなら協力できるというお寺さんの回答も数カ寺ありました。宿坊・寺泊なんてまだまだ世の中にない地域の方が多いわけで、九州全体で見たって10軒程度です。
なので2~3カ寺でのネットワークが組めるだけでも十分世間の目を引きます。
地域の期待がお寺の想いと空回りしないための意識共有
そして今回のような地域ニーズから始まる宿坊・寺泊プロジェクトでは、まずお寺のロジックを周りが知ることが重要と考えています。そこで今回は『宿坊・寺泊の現状と未来予測』という講演の中で、お寺の意思決定プロセスについてもお話させて頂きました。
その資料(のうちの一枚)がこちらです。
この辺はお坊さんには説明不要でしょうが、市役所の方や地域観光に携わっていてお寺と手を組みたいという方にはしっかり伝えたいメッセージです。
お寺によっても事情はそれぞれ千差万別ですし、これ以外にも気にするべきたくさんの関係者はいます。しかしほーりーは宿坊を開きたいというお坊さんから、奥さんや檀家さんからの反対でとん挫したという話を各地でちょいちょい聞いています。
本当にあそことか、あそことか、あのお寺さんとか宿坊ができたらすごくよかったのにとか、今振り返っても残念に思いますしね。
また今回は私の他に、京都府で宿坊を開いた正歴寺の玉川住職も講師を務められていました。その話の中で印象深かったのは、宿坊を実際に開いて感じたデメリットです。
これはかなり率直な話をされていましたが「お金儲けをしていると言われる」「他のお坊さんから冷たい目で見られることもある」「地域の方から嫌味を言われたこともあった」などがありました(ごく一部でという前置きがあり、それ以上に応援して下さる方も多かったようですが)。
そんなわけで宿坊に興味を持ったお坊さんに、観光行政の観点からばかりメリットを強調しても、それはかえってデメリットと受け取られる可能性があるなと再認識したのが、私がこの話から得たことです。
玉川住職はもしもやりたいお寺があって周りから反対が起きるなら、私も一緒に行って話し合いに協力しますよと仰っていました。
「地域の暮らしをよくしたい」とか「お寺を次世代に伝えたい」など基本的な共通目標は押さえつつ、両者のギャップにもしっかり目を向けないといらぬ衝突を起こしてしまうというのも、こうした意見から伝わってくるでしょう。
ということで、、、
対馬と言えば、以前は韓国からの旅行者で大賑わいというニュースがたびたび流れていました。しかし日韓関係の変化やコロナなどで一気に観光需要が消えるなど、ひとつの国に集中せずに分散させることの大切さが指摘されています。
これはほーりーがこのブログでも提唱している、石垣型のお寺設計と同じコンセプトです。
そして宿坊は大雑把に見ればアジアよりは欧米やオーストラリアのほうが、興味を持ちやすいテーマです。
宿坊で狙いたいのは中国・韓国ではなく、欧米豪からの旅行者です
立地的に考えても韓国から海を渡って直接来られる経路を除けば、海外の方を一度に多人数着島させる手段はありません。そう考えると高級化路線も大切で、これまた宿坊が大きな役割を果たしていくでしょう。
今回は対馬市や長崎県の方もいましたし、この勉強会で2日間アテンドしてくださった株式会社ルーツ・アンド・パートナーズさんは、まちづくりや観光振興の企画を行っている会社でもあります。
玉川住職も自分のお寺は最初の一番難しい時期に孤軍奮闘していたので、周りからこんなにバックアップが得られるのはうらやましいとも仰っていました。
対馬の寺泊プロジェクトはまだまだ始まったばかり。せっかくご縁ができた地域なので、ほーりーもこれからどんどん応援していこうと思います。
だってあの島。うまいものだらけですしね。また行きたい。