お坊さん研修会で、過疎地のお寺を待ち受ける6つの黒船を話しました
先日、曹洞宗青森県布教師会主催のオンライン研修会で、講師をさせて頂きました。依頼内容はコロナ後のお寺について話してほしいというものです。
そこでこれまでほーりーがブログや月刊住職での連載記事で書いた様々なテーマの中で、今後お寺にとって無視できなくなる社会変化をまとめてみました。題して『お寺を待ち受ける6つの黒船』です。
まずはこの講演で最後に出した、まとめスライドを紹介します。左がこれから起こると予想される変化、右がそれに対するお寺の対応です。
この講演を聴いたお坊さんからお話も伺いましたが、人によって興味を持たれたテーマはかなりばらけていました。そんなわけで以下の詳細は、気になった項目を抜き出して読んで頂いても大丈夫です。
お寺を待ち受ける6つの黒船
黒船1 高齢者の減少
まず一つ目の黒船は、『高齢者減少』です。青森県では2025年から、65歳以上の人数が減り始めます(予測人数は5年単位で公表されているため、実際には2023~2027くらいの間に反転が起こると思われます)。
これまで人口減少と言いながら、一方で多死社会と呼ばれていました。それは高齢者がどんどん増えていたためです。そしてこの層が減少に転じると、お寺にとっては今までにないインパクトをもたらします。
実際にこの講演資料(の、たたき台)を見たあるお坊さんは、このデータは衝撃的と仰っていました。また昨年講演した北海道登別市や、企画作りでご一緒している二尊院さんがある山口県長門市でも同じ傾向が出ていました(長門市の場合は、2020年がピークでした)。
なお、この高齢者減少のメカニズムとお寺が取れる対応については、以下の記事にまとめていますのでご参照ください。
人口減少から高齢者減少へとシフトする登別市でお坊さんに伝えたこと
黒船2 女性世帯主の増加
二つ目は『女性世帯主の増加』です。現在、45~54歳と75~84歳の女性単独世帯が急速に増えています。
これは45~54歳は未婚率の上昇、75~84歳は平均寿命の延伸が理由です。そしてお寺にとって特に影響があるのは、この45~54歳がもう少し年齢を重ねてからと考えています。
具体的にはお葬式や法事において、女性の喪主・施主が増加します。このためお寺側でも女性僧侶や寺庭婦人・坊守さんなどの役割が増していくでしょう。逆に言えばお寺は男社会の傾向が強いままだと新たな形で寺離れを起こす可能性があります。
女性世帯主の増加に関する分析と対応は、次の記事にまとめていますのでこちらもご覧ください。
黒船3 インバウンドの拡大
訪日外国人の誘致は、日本の国策となっています。そしてその結果を表したのが以下のグラフです。
2013年頃から日本を訪れる方が一気に増え、コロナが広がった2020年に急激に鎖国状態となりました。そしてようやく解放された2023年はピーク時までは及ばないものの、びっくりするほどの勢いで急回復しています。
いろんなグラフを作るのが趣味のほーりーですが、こんなに変化が激しく作り甲斐のあったグラフは珍しいかもしれません。
そして講演では青森県にはどこの国の方が多く訪れているか、またお寺体験に興味を持っている方はどの国の方かといった話もしています。特に今回は曹洞宗のお坊さんにお話ししたこともあり、禅とインバウンドの相性の良さも語ってきました。
次の記事は宿坊に焦点を絞った話ですが、内容としてはほぼ同じですので、興味がありましたらご参照ください。
宿坊で狙いたいのは中国・韓国ではなく、欧米豪からの旅行者です
黒船4 AI(人工知能)の発達
近年、AIは対話と画像生成の2分野において、目を見張る発達を遂げています。前者のリーダーはChat GPTですし、後者はMidjourneyやStable Diffusionでしょうか。あとは最近ほーりーが一番気に入っている、DALL・E 3(ダリ・スリー)もありますね。
上の絵はAIが描いたお坊さんの絵です。専門の方から見れば衣などは突っ込みどころも多いでしょうが、こうした絵が1分とかからず描けてしまうのは驚異的です。
以下はほーりーと二尊院さんで一緒に作った、AIイラストを用いた御朱印(作った当時は多分、日本初)に関しての記事です。
なお、AIに関しては賛否両論様々な意見が飛び交っています。そこで著作権に関しても、文化庁のセミナーや現在進んでいる議論などを中心に紹介しました。特に「○○(作者名)風」とか「××(キャラクター名)のような」みたいに、他者の創作物と強く結びつく言葉で指定するのはやめた方が良いでしょう。
気を付ける部分は気をつけつつ、ただ怖いものとしてふたをしてしまうと世の中から一気に取り残される可能性があるため、まずはちょっとでいいのでAIを触ってみるとよいのではと思います。
黒船5 インフレ社会の到来
ここ数年、物価が急上昇しています。30年ほど続いたデフレの終わりが見えてきましたが、それだけにお金に関して今までと同じ意識を引きずっていると、まずいことになるかもしれません。
特に怖いことの一つは、円の暴落です。今後さらに円安が続くのか、それとも円高に戻るかは分かりませんが、資産防衛のために通貨分散はしておいた方が良いと考えています(ちなみにほーりーは、個人資産の1/3くらいを、米ドルやドル建て資産にしています)。
上記は各国通貨と円の比較です。2019年2月と2024年2月を比べると、日本円はほぼ全面安であることが分かります。一番ひどいのはトルコリラですが、それ以外だと円より安くなったのは南アフリカランドとロシアルーブルくらいしかありません。
特に世界中から経済制裁を受けているロシアの通貨とほぼ同程度というあたりに、日本円が世界からどのように見られているかが分かります。
そしてついでですがこれから経済が衰退する可能性の高い日本では、欲より恐怖で失敗する人が増えるだろうと予想されます。振り込め詐欺や年金2000万円問題などは典型ですが、不安や恐怖は欲望よりも制御が難しいものです。
そこでお坊さんには投資で損をしてパニックを経験した方が、恐怖で追いつめられる心情を理解しやすくなるともお話ししました。
似たような話は以下の記事にも書いていますので、よろしければぜひどうぞ。
黒船6 仏像盗難の深刻化
コロナとそれに続く緊急事態宣言の連発や自粛などにより、日本経済は大きな打撃を受けました。それをまとめたのが、以下の記事です。
そして現在、予測通りに倒産件数が増加しています。また長期的には人口減少することで、経済はさらに悪化していく可能性が高いでしょう。
そこで考えられるのが、経済状況と治安の関係性です。下の図は完全失業率と犯罪発生率を並べたグラフですが、両者には一定の相関があることが読み取れます。
そして警察庁のデータを見ると、お寺は一般住宅より10倍程度、泥棒が入りやすい施設となっています。また仏像は他の文化財よりはるかに多くの盗難に遭っています。
そこで考えられるのは、これから仏像盗難がさらに深刻化するかもしれないという予測です。これまた詳細は、以下の記事にまとめています。
コロナ不況の長期化で予想される仏像盗難には注意が必要
仏像に関しては秘仏も含めてできるだけ早期に写真を撮ったり、寸法や銘文なども記録しておく方が良いでしょう。また無人のお堂は人の手が入っていることが分かるように管理したり、施錠や監視カメラなど防犯対策を施すことで被害を防ぐことができます。
と、いうことで、、、
青森県は約3/4ほどが過疎地に指定されています。このため今回は人口減少が激しい地域に向けた予測を述べさせて頂きました。
そして今回の研修会では上で紹介した6つの黒船を受けて、さらに『檀家数減少時代のお寺の方策』というお話しもしています。下のリンクはその内容を紹介したものです(ただし5年以上前に書いた記事なので、方策のいくつかは今回差し替えました)。
大雑把に行ってしまえば高齢者が減少して経済も落ち込んでいくなど、これまでのやり方の踏襲だけではお寺はどんどん苦しくなるでしょう。一方で訪日旅行者が増えたりインフレが始まったりと、新しいことを行うお寺にチャンスも芽生えています。
これから10年はそうした上昇気流と下降圧が二極に分かれる時代となります。そんなことを考える一歩に今回の研修がなったなら、嬉しく思います。